ゴッホ展感想:巨匠を進化させた、画家たちの化学反応が見える!ゴッホは作品もプライベートも波瀾万丈。

アート

芸術の秋、誰もが知る巨匠の特別展が東京、上野で始まっています。上野の森美術館で現在開催中の「ゴッホ展」です。本展ではゴッホ作品が40点弱展示されており、これほど多くの作品が一度に見られる展覧会はなかなかありません。この機会を逃す手はない!ということで今回行ってきました。やはりゴッホは大人気で、入場時に列はなかったものの、展示室内はかなり混雑していて移動が大変になるほど。大きな荷物はロッカーに預けて、身軽な格好で展示室に入った方がいいと思います。

本展のキャッチコピーは「人生を変えた2つの出会い」。展示を見ていくと、ゴッホを巨匠として有名にした晩年の作風(絵の具の厚塗りや、うねるような筆遣い、鮮やかな色彩など)は、ゴッホがキャリアを積むなかで様々な画家の影響を受け、自身で確立した独自の作風だったことがよくわかります。そしてゴッホ以外の有名画家の作品が見られるのも本展のポイント。初期のゴッホが影響を受けたオランダ画家の作品や、フランスに渡ったゴッホが独自の作風を確立するきっかけとなった印象派の作品(モネ、ルノワール、セザンヌ…)も見られて、大変お得感のある内容でした。

ゴッホが画家としてのキャリアをスタートしたばかりの作品を見たのは初めてだったのですが、例えば「ひまわり」に代表されるような、よく知られている作品とはまったく異なる印象で、「コレ本当に同じ人が描いた作品なの?!」とビックリしました。彼が画家として活動した期間はたったの10年ほど。短い間に画風が急速に進化していることに驚き、また彼の波瀾万丈の人生から感じることも多かったのです。

1. 巨匠がちょっとだけ身近になる?!初期のゴッホの作品

オランダで生まれ、当初は画商としての仕事を続けていたゴッホ。イギリス・ロンドン勤務へ栄転しましたが、恋愛問題をきっかけとして最終的には職を失ってしまいます。その後、父と同じ神父になろうと試みるも挫折し、画家になることを決意します。人生を変えた最初の出会いは、オランダ、ハーグ派との出会いです。有名なミレーの「落ち穂拾い」に代表されるような、日常的な田園風景や農民の暮らしに寄り添った絵画を得意とする集団です。ゴッホは、先輩画家であるアントン・マウフェから画材の提供を受けるなどの支援を受けて、画家としてのキャリアをスタートします。この頃のゴッホの作品は、色彩は全体的に暗めで茶系のトーンでまとめられており、独特の筆遣いや絵の具の厚塗りなどは見られません。わたしたちがよく知っているゴッホとは全く異なる雰囲気です。近くには、師匠であるマウフェの絵を始めとした、ハーグ派の絵も展示されていますが、初期のゴッホの絵と描き方がそっくりなのです。それもそのはず、ゴッホは画家としてのキャリアをスタートするにあたり、美術館や展覧会を訪れたり、先人の絵を模写したりして地道な下積みをし絵画を学んでいったのだとか。

私たちも何か新しいことを始めようとするときは、その道のプロに教えを請うたり、上手な人の真似をしたり、基礎練習を積み重ねたりしてコツコツと技術を習得していきます。ゴッホほどの巨匠であっても、最初のうちは師匠の作風を忠実に再現するところから始めたのかなあ~と思うと、なんだかゴッホが身近に思えてきます。

2. ゴッホの才能を開花させた、フランスでの出会い。ゴッホの絵は、2次元→3次元に進化した!

画家としての活動を続ける中で、貧しい暮らしを送っていたゴッホは、弟・テオを頼ってフランスへ移り住みます。ここで、彼の人生を変える第二の出会いが待っていました。印象派画家たちとの交流と、日本の浮世絵との出会いです。本展ではモネ、ルノワール、ピサロ、シスレーなど、印象派を代表する画家たちの作品も見ることができます。ハーグ派の画家たちとは違う、明るい光に満ち溢れた画面と、独特な筆遣い。そして絵の具を分厚く重ねる技法は、モンティセリからの影響です。(本展で展示があります。ゴッホの作風とよく似ているので要チェック!)

オランダ時代のゴッホの作品と、フランスに渡った後の作品を比較すると全く色調や雰囲気が異なることに驚かされます。フランスでの作品は鮮やかな明るい色彩に満ち、描いたときの筆のストロークがすべてわかるようなタッチがキャンバス上に残っています。たった数年の間に劇的に描画手法が変わったということは、よほど強い影響を受けたことが想像できますし、これだけ速いスピードで新しい画風をとり入れられるのは卓越した才能のなせる技ではないかと思わされます。

こうして確立された巨匠・ゴッホの作風。豊かな色彩、絵の具の立体感による絶妙なニュアンス、うねるような筆遣い。わたしが晩年の作品を見ていて感じたのは、「ゴッホの作品は2次元じゃない。3Dだ!」ということでした。
例えば、本展の白眉である「糸杉」(1889年、メトロポリタン美術館所蔵)。写真で見た事はありましたが、実物を見ると全然違う!

平面に描かれている絵画なのに、奥行きと立体感を感じたのです。それもそのはず、絵の具が分厚く塗り重ねられることによって、絵の具の凹凸ができ、立体的に見えているのです。糸杉の枝葉、手前に書かれている草木や空に浮かぶ雲など、描かれている全てのモチーフが盛り上がった絵の具の効果で3次元の実物のように見えてくるのです。そして青い空はうねった曲線で描かれており、ゴッホの心の中の葛藤が画面に再現されているかのようです。

同様の3次元的な書き方は同じ時期に制作された「薔薇」(1890年、ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵)でも発揮されています。

花びらの重なりが絵の具の重なりで表現されており、立体感と奥行きを感じる作品で釘付けになります。フランスでのさらなる出会いが、ゴッホの作風に強烈な化学反応を起こしたのだと実感します。

このほかにも本展では晩年の作品20点弱を見ることができ、どれも美しく人の心を打つ作品ばかりです。しかし、美しい風景画や肖像画の中にどこか憂いや悩みを含んだ印象を受けるのは、もしかしたらゴッホの私生活での葛藤が彼の作品に大きな影響を与えたからなのかもしれません。フランスに渡ったあと精神病の発作に悩まされ、同居していたゴーギャンと袂を分かつなど、悩み多き人生を送り37歳の若さで自殺してしまいます。生きている間に彼の絵は1枚しか売れなかった、という話を聞くと本当に切なくなります。

3. ゴッホの人生は波瀾万丈

ゴッホの人生を彼の作品とともにたどってみると、本当にプライベートは波瀾万丈です。画商として働いていたのに、失恋で職を失うところまで没落。次の仕事に選んだ神父の仕事も挫折。生活が楽ではなく、弟からの仕送りを受けながらひたすら画家を志し努力するも、生きている間に自分の絵がたった1枚しか売れず、精神病の発作にも悩まされる。恋愛問題になんか目をくれずに、画商として暮らしていればもっと幸せな人生だったのではないか?もしかしたら、何らかの形で教会関係の仕事を続けていたらもっと楽に生きられたのではないか?などいろいろ考えさせられます。しかし、彼の失職や挫折がなければ、フランスへ渡って様々な芸術家の刺激を受け、独自の作風を確立させる事はなかったでしょうし、後世になって多くのファンを持ち、作品が高額で取引されることもなかったでしょう。まさに人間万事塞翁が馬。

画商、画家として才能を発揮したゴッホは、やはり絵に関わる仕事に適性があったのは間違いないと思います。それでも、彼ははかなりの回り道をし、画家という天職にたどり着いたのは27歳の時でした。何が1番自分に向いている仕事なのか、自分が1番やりたいことは何かを知ることはとても難しいのだと痛感させられます。そして人生に悩み苦しんで珠玉の作品たちを生み出す姿と、なかなか思い通りにならない彼の人生に共感するのです。この波瀾万丈な人生も、わたしたちが巨匠・ゴッホに惹きつけられる理由の1つなのかもしれません。


日によってはかなり混雑しているようなので、ゴッホ展のtwitter公式アカウント(https://twitter.com/2019gogh2020)で混雑情報をチェックしつつ、事前にチケットを購入してから行かれることをお勧めします。

ゴッホ展
【東京展】
会期:2019年10月11日〜2020年1月13日
会場:上野の森美術館
公式サイト:http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【神戸展】
会期:2020年1月25日〜2020年3月29日
会場:兵庫県立美術館
公式サイト:https://www.artm.pref.hyogo.jp/index.html

※展示作品については、公式の特設サイト(https://go-go-gogh.jp)に情報があります