外資系企業のはなし④JD:ワークライフバランスを守る砦

JD=Job Descriptionの略。職務記述書。職務内容の規定書。

Job Descriptionとは、外資系企業において従業員が担当する職務内容を詳細に記述した書類になります。入社する際に必ず雇用契約を結びますが、その際JDに記載された職務内容をもとに年収が決められます。従って、雇用契約における業務内容の範囲を示す重要な書類になります。

JDの内容は結構細かい

では、どの程度詳細に業務内容が契約されるのか。ひとつの事例として、「もし学校の先生が外資系企業に勤めていたら」というケーススタディで考えてみたいと思います。

日本の学校の先生に対する一般的な業務指示
◯◯先生、今年の4月から1年間、△年□組の担任をお願いします。

以上。ではもし外資風にしたらどうなるかがこちら。↓

もし学校の先生が外資に勤めていたらJDはこうなるかも

2018年4月1日~2019年3月31日の業務:△年□組の担任

【目標】学習科目や課外活動を通じて生徒の基礎学力向上を目指し、併せて道徳観やコミュニケーション力などのヒューマンスキルを磨く。

【レポート先】学年主任、副校長および学校長へ業務報告を実施する。

①国語、算数、書写、生活科の文科省学習指導要領に基づく授業準備、授業実施。

②上記①に基づく学力評価試験の実施とその採点、児童へのフィードバック:1~3学期の各学期ごとに各1回。

③上記①に示した各科目に関する宿題プリントの企画、印刷、児童への配布と連絡、回収および採点、児童へのフィードバック。必要に応じて保護者とも連携する。

④児童の健康状態を把握し、体調に急変が認められた児童は保健室の養護教諭へ連携する。同時に保護者への連絡を電話にて行う。・・・・

先生の業務はもっとあると思うのですが長くなるのでこのへんで。上記は私が勝手に考えたものなので、現場の状況とはかけ離れているかもしれませんが、とにかくJDはかなり細かいことがお分かりいただけますでしょうか。JDは契約なので、あらゆる業務内容を棚卸しして書いておかないと、従業員に遂行してもらえなくなります。そこで、ある程度業務内容を大きめに書いておいて、広範囲の仕事を含めるように工夫する場合もあります。が、あまり業務内容をぼかすと後々トラブルになります。例えば、必須の業務であるにもかかわらず、JDに詳細な記述がないために「この業務はJDに記述がないので必要ないとみなしてやりませんでした」といってその業務が実行されず、ビジネスに影響が出るなどです。また、あまり漠然としたJDを書くと、契約の際にそもそも従業員側からツッコミが入りますので、そこそこ細かく書かざるを得ません。

JDは仕事を断る強力な武器になる

裏を返せば、上司からJDに明記されていない業務を振られた場合、JDの記述をもとに毅然とした態度で仕事を断ることができます。

たとえば

ボス
ボス「ままいまさん、この仕事(JD範囲外の超重い仕事)をお願いしたいんだけど」
「それは私の仕事ではありません」

という感じで。まあ、実際にはもう少し言い方を考えますし、軽い仕事ならJD外でも引き受けることはあります。でも、JD外の重い仕事は絶対にあの手この手で断ります。上記のような戦闘モードになることもあります。残業が増えて自分が潰されるのを防ぐために、必死で抵抗します。

一般的に日本の組織ではJDがありません。職務内容はなんとなく決められており、状況によって仕事が増えたりするのでとても流動的です。そんな日本の組織で、「それは私の仕事ではありません」なんて言おうものなら、単なるワガママな従業員だと思われてしまいます。仕事を断る合理的な根拠がないからです。

一方、外資系企業ではJDが明確であるため、契約外業務に対してはJDという強力な根拠をもってNOと言うことができます。これはワガママでもなんでもなく、きわめて正当な主張です。JDに対応する形で年収が決められているのですから、JDの範囲外の業務を求められるのならば、年収をさらに積んでもらうか、追加人員を投入してもらうよう交渉しなければなりません。すると、JD範囲外の追加業務を依頼することはコストアップになりますから、上司側も「この業務は追加コストをかけてでもやるべきことなのか」と真剣に考え、なんとなく仕事を振ることができなくなります。結果として本当に必要とされる業務にのみ人員が投入され、会社としての生産性が高まり、長時間労働が抑制されます。

JDはワークライフバランスを守る砦

外資系企業では、職務内容がひとりひとり明確に決まっているおかげで、際限なく業務が積まれることが比較的少なくなっており、比較的良好な労働環境に繋がっていると思います(会社や部門によって差はありますが)。年収を固定してJDの業務内容をどんどん増やされることは、会社から搾取されることになりますので、ワークライフバランスを死守するためにも「私の仕事ではありません」と毅然とした態度で主張することは重要です。かといって決して職務範囲を超えた従業員どうしの助け合いを否定するわけではありません。一時的にそういうことが必要な場合もありますし、もちろん私も同僚と助け合うことはあります。しかし、助け合いという名の下に長時間労働が慢性的にはびこっているのなら、各人の業務範囲を明確にし、本当に必要な業務にのみ人員を投入し、組織としての生産性を上げていくことが必要だと思います。