理系と就職②理系学生の進路は意外と幅広い

理系と就職①半強制アカデミックキャリア問題

↑前回記事で、理系学生(特に院生)は就活において情報弱者になりがちで、様々な進路の可能性を十分に検討できていないのではないか、という懸念について書きました。今回は理系学生にどのような進路があり得るのか、私が周囲で見聞きした事例を紹介したいと思います。

1. 理系学生進路のいろいろ

ちょうど先日、大学の同窓会があったので、私の同期生がどのような進路を辿っているのかヒアリングしてみました。
その結果をまとめると、下図のようになります。(クリックすると別窓で拡大画像が開きます)

 

 


1-1. 博士修了後の進路
図中、一番左側のグレーの太い矢印のライン(学部→大学院修士→大学院博士→研究者)が、多くの教授から期待されるアカデミックキャリアになります。アカデミックキャリアを歩むためには、通常博士号が必須になりますので、大学の研究者を目指す人は博士課程へ進み、博士号取得後に助教などの教員やポスドクとして大学に残ったり、留学してさらなる研究能力を磨いたりと、研究一筋の道に進みます。
一方で、博士課程修了後に大学に残らず、他の組織へ就職する人もいます(図中の赤い矢印)。ひとつは公務員で、国家公務員や地方公務員の理系技官(専門職)として就職し、理系の専門性を生かして国や地方自治体の業務を行うことです。もうひとつは企業の研究職で、博士課程まで培った専門性を生かして企業研究(主に、製品開発というよりは基礎研究の方が多いようです)を行うことです。当然ながら博士課程修了者はその研究分野において高度な専門性を持っていますので、それを生かした進路に進んでいるようです。


1-2. 修士修了後の進路
図中、青い矢印が修士課程修了後の進路になります。思ったより、理系院生でも色々な所に就職しているんだなぁ…と言う印象を持ちませんか?
第1は企業研究職の道です。理系修士院生の主要な就職先は、メーカーの研究職です(私もこの道を辿っています)。これは身近な事例が多く、私が世間知らずだった学生時代にもすぐに思いついた進路の選択肢でした。企業の研究職は、教授から紹介される場合もありますし、公募で応募して採用されることもあります。企業の採用基準も様々で、研究分野(大学院での研究テーマが企業側のニーズに完全に合致しているか)を重視する企業もあれば、研究分野に関わらず大学院での研究実績や研究姿勢など、理系的な研究思考ができるかを問う企業もありました。
第2はいわゆる文系就職の道です。商社、コンサル(経営コンサルティングなど)、IT、金融業界などです。理系で修士まで進んで、文系就職もできるのかぁ…と驚いた覚えがあります。文系就職もできるのならば、理系に進むと理系研究職採用と文系就職両方を狙えるメリットがあるということになります(そのぶん就活が長期化するリスクはありますが)。企業はとても合理的なところですから、研究職を持たないこれら業種で理系院生を採用するからには、理系院生が企業に貢献しうる可能性を見越しているということになります。ここからは私の推測ですが、例えば総合商社で扱う事業の中には、理系の専門性を必要とするものがあるかもしれません。魚の養殖事業で水産業の専門性が要求されたり、化石燃料の開発事業で地質学の知識が役立つなど。また、経営コンサルティングでは、ヘルスケア業界(主に製薬企業)やバイオベンチャーのコンサルティングを行う上で、医薬品や医療制度、生物学などの知識が役立つ場面があると思われます。これら専門性は、高度なレベルで必要とされることはあまりないと思いますが、それでも文系学生と比較すれば理系院生が相当差別化できるポイントです。
第3は特許関係の仕事です。企業において、他社との差別化戦略のひとつに特許を取得することがあります。特許を効率的かつ効果的に申請する専門性をもつのが弁理士で、特許関連業務を専門に行うのが特許事務所です。理系院生の中には特許事務所に入って弁理士を目指す人もいますし、企業の特許関連部署に入る人もいます。特許の申請においては、その技術が過去の技術と比べて、どのような新規性と進歩性があるかを技術的側面から理解することが必要なので、理系院生のニーズがあるのです。
また、博士課程修了者と同様、公務員の道もあります。


1-3. 学部卒業後の進路
図中、黒い矢印が学部卒業後の進路です。修士修了者と同様、メーカー研究職の道もありますが、どちらかといえば修士の学生が多く採用される傾向がありました。一方、メーカーの非研究職で学部学生が採用されることがあるようです。これは、例えば営業の場面で技術的な素養が必要とされたり、コールセンター等のお客様対応で技術的なバックグラウンドに基づいた正確な説明が可能になるなどのニーズによるものです。また、医療系学部の場合は医療機関に就職する人もいます。
一方、学部卒業後に大胆な方向転換をする人もいました。法科大学院に進んだり、司法試験を受験したりして法律の道に進む、文系学部を受験し直すなど。なんだかもったいないように思う方もいるかもしれませんが、個人的には自分のやりたいことが何かをしっかりと見極めて、新しい道に進むのは大変良いことだと思います。そもそも、大学受験前の高校生の段階で、自分の適性を見極めることはとても難しいと思います。大学や学部を選ぶ際には、親や先生の意見にも相当影響を受けますし、実際大学に入ってみて、学んでみて初めて「なんか自分のやりたいこととは違う」と気づく場合も多々あるでしょう。自分の心の声「なんか違う」にきちんと耳を傾け、これまで自分が歩んだ道にNOを突きつけて、自分の力で新しい道を切り開くのは並大抵のことではできませんが、その勇気と努力をとても尊敬しています。


2.まとめ:ゼロベース思考で理系学生の進路を開拓しよう

今回の記事で、理系の進路って実は色々ありますよということを書きましたが、「この選択肢が一番いいですよ」というような無責任なアドバイスを書くつもりはありません。個人個人の専門性や、性格、価値観、適性などによって最適な職業は異なると思うので、一概に「これがオススメ!」と書くのはあまり誠実ではないと思うからです。ただ、前回記事にも書いた通り、「理系だから研究の道に進むべき」とか「理系だから就職は関連分野の研究職だよね」という前提を鵜呑みにせず、自分が大学や大学院で培った専門性が社会のどこで生かせるのか、それを考えることはとても重要です。人間が社会に出て自分の力で稼ぎ、生活していくためには、自分のスキルや経験をベースとして社会から必要とされる成果を出し、対価を得ることが必要だからです。それは、企業に勤める場合だけでなく、大学の研究者になる場合だって同じことです。大学の研究室では各種団体から研究費を得て研究活動を行いますが、自分の研究が社会にどのようなメリットを生むのかを徹底的に考え、それをわかりやすくスポンサーにプレゼンできなければ、研究費を得ることはできません。自分のやりたいことは何か、自分の専門性で貢献できるのはどのような組織・分野なのか。進路を考えるにあたっては、教授の「君たちは将来大学の研究者になるのだから」というプレッシャーに惑わされず、様々な情報源から情報を入手して視野を広げ、「自分」がどうしたいのかを主体的に考えることが重要です。
この記事では理系の様々な進路について、私が周囲で見聞きした事例をもとに示しました。これらの事例は、確実にその進路に進めることを保証するものではなく、またそれ以外の進路の存在を否定するものでもありません。社会環境は常に変化しており、これまでにはなかった新しい産業や仕事が生まれ、そこで新たに理系の専門性が必要とされる可能性だってあるのです。ひとつだけ確実に言えることは、私の周囲の理系出身者が「理系の進路が研究者に限られるのはおかしい!」と考えて、自分自身で道を切り開いて行った結果、理系学生の多様な進路が開拓されたということです。これからも理系学生ひとりひとりが自分の進路をゼロベースで考え、各自の力で新しい進路を切り開いていけば、理系学生の活躍の場がさらに広がるのではないでしょうか。