「ダ・ヴィンチ没後500年 夢の実現展」:展覧会の未来が見える!レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた夢とは?

2019年はレオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年にあたる年。フランス・パリのルーブル美術館では過去最大規模のダ・ヴィンチ展が開催されているということで話題になっています。観に行きたい気持ちはあるのですが、そのためだけにフランスへ行く、というのはハードルが高すぎる。…と、うだうだ考えていたら、日本でもダ・ヴィンチ没後500年を記念した画期的な展覧会が行われていることを知り、行ってきました。東京・代官山で開催中の「ダ・ヴィンチ没後500年 夢の実現展」です。


本展は東京造形大学が主導するプロジェクト。レオナルド・ダ・ヴィンチが発想した様々な機械、建築物、絵画を復元することで、彼が成し遂げられなかった夢を実現しようというものです。(本展は1作品を除いて撮影可能です)

1.万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた夢とは?

15世期に私生児として生まれたダ・ヴィンチは、フィレンツェの工房で修行した後、ミラノで軍事技師として雇われます。が、このとき彼は軍事に関する実務経験がなかったのだとか。そうした事情も災いしたのか、初期の頃に開発された軍用機械は実用性の乏しいものが多かったそうです。展示では彼が開発した軍用機械の模型を映像解説とともに見ることができますが、例えばこの二頭立て戦車。映像解説で「実用に向かない、重くて遅いため回転刃も簡単によけられそう」と酷評されていて、ちょっと可笑しくなってしまいました。

二頭立て戦車 復元模型(夢の実現展にて筆者撮影)

二頭立て戦車 復元模型(夢の実現展にて筆者撮影)

レオナルド・ダ・ヴィンチは生まれながらに万能の天才だと思っていたのですが、初期の頃は失敗もしていたのか~、と彼の人間味が垣間見えたような気がしました。

その後、彼はたゆまぬ努力と試行錯誤を続け、様々な発明機械を着想しています。ちょっと意外だったのが肉を回転させながら焼くために作られた「自動ロースト器」。

自動ロースト器(夢の実現展にて筆者撮影)

自動ロースト器(夢の実現展にて筆者撮影)

肉を焼く時、ムラなく火を通すためにはずっと手で回し続けなければなりません。それはしんどいので、なんとか自動で肉を回転させることができれば…ということで考案されたもののようです。ダ・ヴィンチの発明というと「空を飛ぶための機械」に代表されるように、人類の壮大な夢を叶えるものばかり考案していたと勝手に思っていました。それに対して、これは「肉を手で回すのが面倒」という日常に密着した課題を解決するためのもの。ちょっとダ・ヴィンチを身近に感じる発明品でした。

こうした数々の発明よりも、彼の残した絵画の方が有名かもしれません。たとえば言わずと知れた「モナ・リザ」。ダ・ヴィンチ自身がずっと手元に置き、手を加え続けた作品だそうです。描かれた当時の色彩が、今回の復元でよみがえっています。わたしはルーブル美術館でオリジナルをみたことがありますが、背景は全体的に茶系な印象でした。復元後のものは空の青、木々の緑が色鮮やか。もともとはみずみずしい色彩で風景が描かれていたんですね。

モナ・リザ(夢の実現展にて筆者撮影)

モナ・リザ(夢の実現展にて筆者撮影)

絵画作品の在りし日の姿が次々と再現されていて圧巻なのですが、なかでも稀有な展示は「サルヴァトール・ムンディ」。2017年にオークションにかけられ話題となりました。ダ・ヴィンチと彼の工房によって描かれた宗教画です。508億円という超高額で落札されたのだとか!アラブ首長国連邦のルーブル・アブダビ美術館で展示される予定だそうですが、まだ公開はされていない模様。複製とはいえども、本展でこの作品が見られるのはとても幸運だと言えるのではないでしょうか。

サルヴァトール・ムンディ(夢の実現展にて筆者撮影)

サルヴァトール・ムンディ(夢の実現展にて筆者撮影)

わたしがこれまでダ・ヴィンチに対して持っていたイメージは「人間離れした天才」でしたが、本展で絵画や発明品をひとつひとつ見ていると、違った人物像が見えてきました。失敗を経験しながらも好奇心を持ち、コツコツと努力を続けた努力家に見えてきたのです。
もちろん、卓越した才能を持って生まれた人物には違いないと思うのですが、決して才能だけで生きた人ではないなと。ここでわたしはトーマス・エジソンの言葉を思い出しました。

「天才とは、1%のヒラメキと99%の努力である。」

まさにダ・ヴィンチもそうだったのではないでしょうか。

2.未来の展覧会はこうなる?最新技術を用いた体験型展示も。

もうひとつ、わたしが素晴らしいなと思ったのは展示の魅せ方がとても工夫されていること。美術系の展覧会というと、主に彫刻や絵画がキャプションとともに配置されていて、たまーに短い解説映像があるのが普通だと思いますが、本展はふつうの展覧会とはちょっと違います。単に展示を見て終わりではなく、最新テクノロジーとのコラボレーションにより、ダ・ヴィンチの創造した世界観を余すところなく体験できてしまうのです。

①タブレット型音声ガイド(無料)

ふつう音声ガイドというと、ボタンを押すと音声が再生されるだけの機能のものを想像しますよね。本展では、タブレット型音声ガイド(たぶんiPad)を無料で貸し出していただけます。これは嬉しい。鑑賞者が展示室へ入ると、音声が自動再生される仕組み。各展示室にはダ・ヴィンチ作品が展示されており、タブレットで各展示室の作品リストをクリックすると、現存しているダヴィンチ作品の画像が見られます。展示されている復元後のものと、現存している作品とがどう違うのか、画面と展示を見ながら見比べることができます。また、解説もタブレット上で見ることが可能。従来の音声ガイドと比べると、圧倒的に情報量が多くて画期的です。


いくつかの作品については、面白い仕掛けがあります。タブレット上で「AR」ボタンを押してタブレットを展示作品に向けると、作品を理解するための補足情報が現れるというもの。ちなみにAR=拡張現実で、実在する風景に架空の視覚情報を重ねて表示する技術。スマホゲームのポケモンGOで使われている技術ですね。

たとえば、本展では修道院の壁画として描かれたダ・ヴィンチの名作「最後の晩餐」の実物大復元展示がありますが、ARボタンを押してタブレットを作品にかざすと、こんな画像が出てきます。


この壁画が描かれるにあたって、どのように遠近法が使われたかを視覚的にわかりやすく表示してくれています。キリストの額あたりを基準に空間の拡がりを遠近法で示していたんですね。

②復元画を映像で展示する

「最後の晩餐」の実物大復元画展示は、プロジェクターでスクリーンに映写されたスタイルとなっていました。「なんでわざわざプロジェクターでの展示にしているのかな?」と思ったら、ここにも仕掛けがありました。大体10分毎に、復元前の状態の壁画が現れたり、画中の登場人物が動いたりするんです。
復元のビフォーアフターでどのように違うのかをわかりやすくするために、ふつうは復元前後の絵画を並べて展示したりすると思うのですが、映像でそれを表現するのは新しい試みだなと思いました。

③名画「最後の晩餐」の中に入れるバーチャル体験も

体験コーナーでは、VR(バーチャルリアリティ)の体験もできます。バーチャル空間の中で、「最後の晩餐」の絵の中に入ることができるんです。


VRゴーグルを装着すると、「最後の晩餐」の中央に描かれているイエス=キリストの視点を体感することができます。目の前にはテーブルがあり、その上には皿やパン、果物が置かれています。パンや果物を触って持ち上げることもできます。また、後ろを振り返ると、背景に描かれていた窓の外の景色が再現されて広がっているのです。部屋の反対側にはキリストの磔刑をモチーフとした別の壁画が描かれており、「あ~、そういえばそうだったよ!うん!うん!」とイタリアで「最後の晩餐」の実物を見たときのことを思い出したのです。

わたしは数年前、「最後の晩餐」の実物を見るためにミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会へ行きました。修道院の食堂の壁に、「最後の晩餐」は描かれています。お金と時間をかけてやっとこさミラノへ辿り着いたものの、鑑賞を許されるのは1グループたった15分間だけ。作品保護のため仕方ないのですが、じっくり見ることはできず少し残念な思いをしました。このVR体験で「あ~そうそう!こういう感じだった!!」とミラノでの経験がよみがえってきて嬉しくなりました。一般公開が限定された空間を手軽に体験できるのは、VRの大きな価値ですよね。VRいいな~。無限の可能性を感じる。


ここに書いたのは本展のほんの一部。個々の作品の復元自体も世界初の取り組みが多いそうですし、とにかく今までにない展示の工夫が随所に凝らされていると感じました。音声ガイドをタブレットにしたり、VRを使って「最後の晩餐」の絵の中に入れたり…展示品をキャプションとともに配置するだけでなく、既存の展覧会の枠組みを超えて新しい美術展のあり方を開拓していました。

レオナルド・ダ・ヴィンチは画家として活躍しただけでなく、努力と試行錯誤を重ねながら、さまざまな課題を解決するための発明を次々と生み出しました。きっと本展の構想に携わった方々も、ダ・ヴィンチと同様に新しい展覧会のあり方に挑戦し、難題を乗り越えて本展を実現されたのだと思います。東京造形大学の方々をはじめとした、本展関係者のダヴィンチ・イズムを感じる展覧会でした。これが無料だなんて、なんだか申し訳なくなるくらいです。

「夢の実現展」は2020年1月26日まで。入場無料、音声ガイドも無料なので、お近くに行かれる方はぜひ。

【「夢の実現」展ーダ・ヴィンチ没後500年記念 開催概要】
会期:2020年1月5日(日)~2020年1月26日(日)<終了>
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
特設サイト:http://leonardo500.jp