「トイ・ストーリー4」感想:疲れたサラリーマンが、おもちゃの生き様から自分の人生を考えさせられる名作。(※ネタバレあり)

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トイ・ストーリーの最新作は、大人に対する強烈なメッセージを発信する映画だった

CGアニメーションで世界的に有名な、アメリカのピクサー・アニメーションスタジオ。ピクサー社が初めて製作した長編アニメーションが「トイ・ストーリー」で、過去3作が製作されており、それぞれおもちゃと人間の冒険を描いているシリーズです。おもちゃ達は感情と思考力を持ち、人間が見ていない場所では動いて話せる設定で、持ち主である子供、アンディのために奮闘する様子が笑いあり涙ありのコメディタッチで描かれています。特にアンディの1番のお気に入りのおもちゃはカウボーイのウッディ。彼はおもちゃ達のリーダー格として皆をまとめ、問題解決のために作戦を立て、仲間に指示を出すなどリーダーシップを発揮します。人間の上を行くおもちゃ達の活躍が楽しく、わたしは過去3作品をすべて見ており、現在上映中の最新作「トイ・ストーリー4」も楽しみにしていました。

アニメーション映画なので、ファミリー向けのエンタメ作品と思って気楽に観に行ったら、いい意味で期待を裏切られ、大人が考えさせられる深いテーマを扱っていて度肝を抜かれました。おもちゃ達の人生を通じて、人間の人生を考えさせられるんです。

※以下、結末のネタバレはありませんが、部分的にストーリーのネタバレを書いていますのでご注意ください。

 

トイ・ストーリー4が大人の心に刺さる3つのポイント

1.  おもちゃの人生って何?という根本的な問いかけで、思考停止を自覚させられる

本作では、そもそも「おもちゃとは何か」というところから話を展開していきます。これは過去作品にはまったくなかった新しい視点です。一般的に考えれば、おもちゃは子供のために作られ消費されるものなので、「おもちゃとは、子供が遊ぶためのものである」という定義になります。が、ピクサーはここに疑問を投げかけているんですね。

トイ・ストーリーの世界ではおもちゃは感情を持ち、自分の頭で考えて行動することができる設定です。まさに人間と同じ。自主性があるおもちゃ達であれば、「おもちゃとは何か」、「おもちゃはどうあるべきか」、そして「おもちゃである自分はどう生きていきたいか」を自分で決めて進んでいけるのではないかとピクサーは考えたのです。そうなってくると、「おもちゃの人生って何?」というところまで話が進んできます。すると、おもちゃ自身が自分の頭で考えれば「おもちゃの人生とは、子供と一緒に遊び、持ち主の子供をサポートするものだ」という前提を疑う方向にも思考が進むため、「あれ、おもちゃの人生ってもっと色々あり得るのかもしれない。勝手に子供の所有物と決めつけてたよ…」と自分の思考停止を自覚させられるのです。ここから、さらに話が深い方向へ進んでいきます。

2. 「おもちゃは、人間の子供に依存するもの」という既成概念を覆す

導入部分でウッディをはじめとするおもちゃ達は、現在の持ち主である幼稚園児の女の子、ボニーのサポートに徹します。遊び相手をし、新しい幼稚園に馴染めるようアシストするなど、ひたすら持ち主に尽くす姿が描かれます。「自分はボニーのおもちゃだ、だからボニーのそばにいて、ひたすら彼女の要求に応えることが仕事なのだ」と信じて行動します。そんな時、ウッディはかつての恋人であった羊飼いの少女のおもちゃ、ボー・ピープに出会います。彼女は1作目に登場したあと行方不明になっていましたが、今回の最新作「トイ・ストーリ4」にパワーアップして帰ってきたのです。そして彼女は、新しいおもちゃの人生を謳歌するパイオニアになっていました。

持ち主がいないおもちゃとして、自分の好きな場所で、好きなことをして自由に暮らしていたのです。そんなボー・ピープの生き方を目の当たりにしたウッディは動揺します。

ウッディをはじめとしたおもちゃ達は、持ち主のために尽くし、その成長をサポートするというミッションを背負い、それを存在意義として日々暮らしていました。ただしそれは、持ち主である子供に依存する生活でもあったのです。持ち主の子供が成長したり、飽きたりすればおもちゃ達は不要品となり、物置にしまい込まれたり、最悪の場合は捨てられます。ウッディ達は常に、持ち主の関心を得られなくなる恐怖に怯えていました。遊んでもらえるうちはいいけれど、飽きればポイされる…こうしてみると、おもちゃ稼業が奴隷のように見えてくるから不思議です。ひとたびこの理不尽さに気づいてしまうと、持ち主に対する依存を離れて、おもちゃが自力で生きていく選択肢もアリなのではないかという発想が出てくるのです。まさにそれを体現していたのが、ボー・ピープでした。動揺し、持ち主に対する忠誠にこだわるウッディに対して、ボーはこう言い放つのです。

「ひとりの子供にこだわるなんておかしい!」

忠臣蔵の赤穂浪士たちに、「ひとりの主君のために自分の命を差し出すなんておかしい!」と全否定するような発言です。「持ち主の子供のために尽くすべき」と思い込んでいたウッディにとって、これは頭を殴られるような衝撃ではないでしょうか?

ウッディが「おもちゃとは、ひとりの子供に尽くすべきもの」という考えを持っていたのは、おそらく彼自身が子供から大事にされる、恵まれた境遇にあったからでしょう。前作「トイ・ストーリー3」によれば、最初の持ち主であるアンディからは成人するまで愛され、大人になったアンディに対する役割が終わった後も、おもちゃを大事にする子供であるボニーに託されたのですから。自分自身が持ち主から愛されていたから、そのお返しとして持ち主に尽くそうと自然に考えることができたのでしょう。

しかし、ボー・ピープは違います。ボー・ピープはアンディの妹、モリーから他の持ち主に譲られ、その後アンティークショップに売られて、店内で買われるのを待っていました。このように持ち主から長く愛された経験がないからこそ、おもちゃの置かれた理不尽な状況に気づくのです。「なんで自分は、人間の子供に人生を依存しなければならないのか?そんなのおかしい!」と。

一般的に、マイノリティの方が既成概念に疑問を抱き、そこから脱出することが容易です。なぜならマイノリティは既存の枠組みでは評価されないので、新しい生き方を模索する必要があるから。子供から愛されなかったボー・ピープが自立し、持ち主に依存しない暮らしを送っていることもそれが理由です。こうしておもちゃと子供の関係性に対する既成概念が、ガラガラと音を立てて崩されていきます。

3.  人生の多様性を提案する

本作では従来のおもちゃの立場を疑い、新しい生き方を提案していくのですが、ひとつの生き方を押しつけないところにも好感が持てます。最終的に、おもちゃの人生には色々な選択肢があるという前提に立ち、持ち主の子供と共に生き、サポートするのも選択肢のひとつとして否定しません。でも、それにこだわらず、自分自身がどうしたいか、自分の心に従って人生を生きればいい。そんなメッセージが伝わってきます。

サラリーマンがこの映画を見ると、ついつい会社に対する忠誠心の話と重ねてしまいます。まさに忠臣蔵のように、ひとつの会社のために忠誠を尽くすことが是とされがちです。その会社が本当に好きで、心から楽しく働けているのならばそれでもいいのですが、心ならずも忠誠心を尽くした結果潰れてしまったりしては本末転倒。自分の本心はどうなのか?どのように生きていきたいのか?改めて自問する必要性と、自分の心に正直に生きることの大切さを教えてくれます。

おもちゃだけでなく人間も、みんな既成概念にこだわらず、自分の心に従って自由に生きればいい。

ボー・ピープの言葉を借りれば、「ひとつの会社にこだわるなんておかしい!!」

そんなメッセージが、疲れたサラリーマンの心に深く刺さるのです。


ピクサー映画を見るといつも思うのですが、これだけ深いメッセージ性を含みつつ、子供も大人も楽しめるエンターテイメント作品に仕上がっているのがすごい。過去作品を見ていなくても楽しめるようになっていますが、初回作「トイ・ストーリー」と「トイ・ストーリー3」を見ておくと倍楽しめると思います。

トイ・ストーリー4

会期:2019年7月12日〜上映中
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/toy4.html

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