「RBGー最強の85才ー」:差別と戦う米国最高裁判事。逆境に負けず、目標に向かって突き進む勇気をくれる映画。

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RBGって何?

RBG。この単語にピンと来る人は少ないのではないでしょうか。

RGB(Red Green Blue)のことじゃないの?と思ったら大間違い。RBGはアメリカの最高裁判所判事、Ruth Bader Ginsberg(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)の頭文字をとったものです。85歳になってもなお現役の最高裁判所判事ですが、現在アメリカで大人気。日本で最高裁判所の裁判官がバズるという事態はちょっと想像できないのですが、アメリカでは関連書籍やグッズが売れに売れています。

彼女がなぜ人気なのかと言えば、まずは法律家としてマイノリティ(特に女性)に対する差別と数々の裁判で長年にわたって戦い、最高裁まで進むような重要案件で勝訴してきた実績です。最高裁へ持ち込まれた裁判では、6件中5件で勝訴。この確かな実力とパワフルさに加えて、現在のアメリカの政治状況も影響して人気が加熱しているようです。

2016年の大統領選挙で保守派のトランプ大統領が当選し、大統領が指名する最高裁判所判事には保守的な判断を行う判事が選ばれました。こうした状況の中、リベラルな法的判断を行うRBGに最後の砦となってもらい、法的判断のさらなる保守化を食い止めたいという市民の思惑があるのです。

RBGの人気は相当なもので、ハッシュタグ#RBGや#Notorious RBG(悪名高いRBG:人気ラッパーのNotorious RIGをもじったもの)でツイッターへ頻繁に投稿されるほか、講演会にはサインを求める人で長蛇の列ができるほど。そんな彼女のドキュメンタリー映画が日本で公開されたので見てきました。「RBGー最強の85才ー」(公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/rbg/、現在は劇場での公開終了)です。RBGは性差別に対する戦いをライフワークとして行っており、映画ではその軌跡がわかるようになっていますが、「どうせフェミニストの映画でしょ」と単純に片付けられない、普遍的なメッセージを感じました。

差別に限らず、日常の中に潜む理不尽さに気づき、それに対してどう戦ってよりよい社会を作っていくのか。困難な目標にどのような戦略を持って挑むのか。私たちが持つべきマインドや取るべきアクションについて考えさせられたのです。

「あたりまえ」を疑い、基本に立ち戻る大切さ

日常に潜む理不尽さを自覚する

差別に対する戦いの中で、RBGが「とにかく差別を自覚させる」ことに腐心している様子が描写されていました。差別など全くないと思っている恵まれた境遇の判事(多くは白人男性の特権階級)に、差別の存在を認識させることがまずはスタートラインだと。これは差別に限らず当てはまることだと思います。

普段何気なく生きていると、身近にある不合理な事実を見過ごしてしまいます。それは性差別だけではありません。

たとえば、

  • 合理性のない規則:職場でのハイヒールの強要、ブラック校則など。
  • 学閥:会社の上級管理職や役員はすべて○○大学出身など。
  • いじめ:学校で外国人と日本人のハーフの子供がいじめに遭う、など。
  • ひいき:学校などで先生が特定の生徒のみに便宜をはかる。

こうした問題は、自分が不利益を受ける側、つまりマイノリティにならない限りは自覚しにくいんです。仮に自覚できたとしても、大多数の人は「まあこういうこともあるか、しょうがないな」と当然の社会通念として受け流してしまう。そしてそういう理不尽さに対して見て見ぬふりをすることが、常識的な対応だと納得してしまいます。こうやって不条理な事実は許容されてしまうのが常です。

しかしある日、不利益を被ったマイノリティの中から声を上げる人が現れ、時には裁判に持ち込んで法的に戦いを挑みます。そこで初めて問題が可視化され、議論が始まるのです。

では自分がマイノリティにならない限り、差別や理不尽な事実に無頓着でよいか?というと、現状そうはいかなくなってきていると感じます。

差別的な表現や、社会にはびこる理不尽さを美化する企業広告がネットで批判を浴びて炎上し、広告の中止に追い込まれた例は多々あります。ここ数年でも、ルミネ・資生堂・牛乳石鹸・ANAなどのCMが炎上し、企業が謝罪する事態にまで発展したのは記憶に新しいところです。無自覚に時代錯誤な情報発信を行っていると、企業価値を棄損するほどの問題を起こすリスクがあるのです。いま、日常に潜む差別や理不尽さに敏感であることが求められており、まずはそれらを自覚するところからすべてが始まります。

基本に忠実に、あるべき姿を自分の頭で考え抜く

差別が社会的に認識され、それをどう改善していくか議論する際に、利害の対立や逆差別など、数々の問題が立ちはだかります。そんなとき、RBGが常に持ち出すのはすべての法的判断の根本であり、法の下の平等を明言している「合衆国憲法」でした。各種差別は憲法違反であると訴えたわけです。基本に立ち戻って考えるということですね。

私は法律家でもなんでもないので、日本国憲法を日常的に意識することはなかなかありませんが、よくよく思い返してみると「これ憲法違反じゃないの?」という事例をこれまで頻繁に目にしてきました。例えば退職ハラスメント。職業選択の自由は憲法で保障されているはずなのに、正当な手続きを踏んだにも関わらず会社を辞めさせてもらえない。あろうことか退職支援サービスまで出てくる始末。

ハラスメントをする方が悪いのはもちろんです。そして、多くの場合無自覚にやっているのでタチが悪いのですが、不利益を被った側も、憲法で保障された職業選択の自由が侵害されていることに気づけていないのかもしれません。そもそも、自分にはどんな権利や自由が保障されているのか?その基本に立ち戻って、時には専門家の助けも借りつつ権利や自由を粘り強く主張し改善していくことが重要です。退職ハラスメントに限らず、この考え方は日常のトラブル解決に有用だと思います。

世の中は一瞬では変わらない。戦略を持って愚直に主張を続ける重要性

理不尽な事実がひとたび議論されただけでは、社会は変わりません。一度作られた社会通念を一朝一夕に変えることはなかなか難しい。RBGが差別と戦った歴史は50年以上。それでもまだ理想的な状態には達していないと彼女は言っています。でも、おかしいことを「おかしい」と主張しなければ社会は変わりません。諦めずに言い続けることが重要なのです。

それも、ただ主張し続けるのではなく効果的な戦略を用いることが重要です。映画で紹介された事例はとても興味深いものでした。それは、RBGが弁護した「男性も性差別で不利益を被っている」という判例です。

生まれたばかりの赤ちゃんを残し、母親が出産で亡くなってしまいました。残された父親は、乳児の世話に専念するため、しばらく仕事をせずに公的補助で生活することを考えました。しかし、当時「ひとり親手当」は母親にしか支給されない規定になっていたのです。そこで、ひとり親の父親が不利益を受けるのはおかしいのではないか、と訴訟を起こしたのです。

RBGはこの訴訟で勝訴し、性差別で男性も不利益を受けるのだ、と印象付けました。性差別というと女性が虐げられているので助けよう、という発想が普通なのですが、その逆を突いた判例です。絶妙なバランス感覚と効果的な戦術ですよね。他にも数々の裁判を積み重ね、差別の撤廃に尽力していったのです。

この経緯は、差別との戦いに限らず、困難な目標を達成するために必要なことを教えてくれます。ゴールを決めたら、適切な戦略を用いて地道に小さな成果を積み上げていく。初めは小さな改善でも、積み重ねれば大きな変化のうねりとなるのです。

困難にもめげず、よりよい社会の実現という大きな目標に向かって努力し続ける姿勢。毅然とした態度で理不尽に立ち向かう強さ。これこそが、アメリカでRBGが熱狂的に支持される理由のひとつなのでしょう。

逆境に負けず、困難な目標を達成したい。よりよい社会を作りたい。そういう思いを持つ、すべての人にお勧めできる映画です。