「フランダースの犬」主人公ネロとルーベンスの出会い:アートは誰のもの?

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明日からルーベンス展が始まるということで、改めてフランダースの犬を読み直しています。子供を持つ親となってから読み直すと新しい発見があるもので、主人公が教会でルーベンス絵画と出会う場面を読んで、今の日本では子供とアートの接点がかなり制限されているのではないか?と考えさせられました。

主人公ネロは貧しいながらも、教会でルーベンスの絵画と出会い、画家を志して必死にデッサンを独学で練習し、絵画コンクールに応募します。最終的にはコンクールで優勝することはできなかったものの、審査員の画家はネロの才能を認め、指導したいと申し出ますが、その時には既にパトラッシュとネロは飢えと寒さと絶望で亡くなっていた後だった…と、なんとも切ない話です。最終的には画家になるという夢は叶わなかったものの、貧しくても教会でルーベンスの絵画を見られたことが画家を志すきっかけとなった点に、子供とアートの接点が重要だというメッセージ性を感じます。

ネロの問題提起:アートは皆のもの

ネロは両親を失った後、祖父と暮らしていましたが、ネロが6歳になったころ、祖父がリウマチで働けなくなったため、パトラッシュの引く荷車で牛乳を売る仕事を引き継ぎます。この仕事の途中、街中の大聖堂でルーベンスの絵と出会うのです。教会は基本的に誰でも入ることができますから、教会の内部に飾られている美術品は子供でも見ることができます。ここでネロは、ルーベンスの「マリア被昇天」に出会い、その魅力に惹きつけられ、以後何度も見に来ます。(下記画像は、Wikipediaからお借りしました)

他にもルーベンスの手による「キリスト昇架」(トップの画像。私が大塚国際美術館で撮影したもの)と「キリスト降架」もあるのですが、この2点は当時布がかけられ、銀貨を支払わないと見られないことになっていました。この状況で、ネロが発した言葉がとても興味深いのです。

貧乏でお金が払えないから見れないなんて、ほんとにひどいよ、パトラッシュ。ルーベンスがあの絵を描いた時、貧乏人には見せないなんて、絶対そんなつもりじゃなかったはずだ。ぼくたちに、毎日ちゃんと見せてくれるはずだったんだ、そうにちがいないよ。

(岩波少年文庫 フランダースの犬 ウィーダ作 野坂悦子訳)より引用

ネロは、「アートは富裕層だけのものではない、皆のものだ」という問題提起をしています。これは現代に通じるものがあると思うのです。いまの日本では、アートは専門家や、相当な知識を持った愛好家だけのもの、という雰囲気があるように思います。特に子供をアートに触れさせようと思うと、大きな障害を感じることが多いのです。ネロがそうであったように、教会のような、誰もが気軽に入れる場所でアートを鑑賞できればハードルはかなり下がるのですが、現状アートに触れられる場所は美術館となります。美術館に子供を連れて行けるか、というと、非常に難しいのが現状です。

日本は子連れ美術館に厳しい

私はもともと美術館が好きで、子供を持つ前は国内外の美術館によく行っていました。美術品を傷つけたりしてはいけないので、やっていいことと悪いことの分別がつくまで(3~4歳くらいまで)は原則子供を美術館に連れて行きませんでしたが、それ以後は子供が興味を示したので、できる限り連れて行っています。子供の頃からアートに触れさせることで、審美眼を養ったり、歴史の勉強になったりと教育的な価値があると考えたからです。しかしながら、日本の美術館は本当に子連れに厳しいです。子供は静かにしているにも関わらず、視線が痛かったり、何もしていないのに係員さんから予防的に注意されたりと、心が折れます。ベビーカーの貸し出しや授乳室を整備している美術館もあるようなのですが、例え設備面が整えられていたとしても、雰囲気的には子連れお断り、という状況です。

日本の美術館では大人に対しても「静粛に」と係員さんから注意され、私語が禁止されることが多いのですが、同行者と感想を言い合うことすら許されないのはちょっと行き過ぎかと思います。この件については、「怖い絵」シリーズでおなじみの中野京子先生も、某美術館でスタッフが専門家に向かって私語禁止と言っていて驚いた、とブログで書いておられます。海外の美術館へ行くと、皆感想を言い合いざわざわしていることが多いです。今までにルーブル美術館、オルセー美術館などに行きましたが、ベビーカーがいても皆気にしている様子はなく、大声を出す子供がいれば注意していますが、日本のような子連れにアンチな雰囲気はありませんでした。幼い頃から芸術に触れられる海外の子供と日本の子供に、将来差がついてしまうのではないかと危惧しています。

美術館にも、子連れOKな時間帯を

理想的には、日本社会で子連れ美術館に対する寛容さがもっと広がってくれるといいのですが、現状はなかなか難しいと思われます。そうであれば、子連れ専用の時間帯を設けるしかないということになります。美術館にも、子連れOKな時間帯を設けてもらえると子供がアートと接点を持てるようになると思います。美術館の託児サービスや、子供向けイベントは増えてきているのですが、子連れ鑑賞ができる専用の時間帯を設けている美術館はあまり見当たりません。日本の美術館が、もっとキッズフレンドリーになってくれることを望みます。

東京都美術館 ムンク展で「こどものための鑑賞会」が企画!
子連れOKの時間帯が欲しい、と書いていたら、東京都美術館で開催されるムンク展で、2018年12月25日にこどものための鑑賞会があるとのこと!!(公式サイトはこちら)東京都美術館さんからのクリスマスプレゼントですね。これは行かねば。