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1.広島の新名所・おりづるタワーとは
旅行で広島へ行くことになり、ガイドブックを調べていたときのこと。世界遺産である原爆ドームと、平和記念資料館は当然訪れる予定でしたが、原爆ドームのすぐ隣に「おりづるタワー」という新名所ができたとの情報が。
広島の原爆と折り鶴といえば、小学校の教科書に載っている佐々木禎子さんの話が有名です。2歳のとき爆心地から近い場所で被爆し、10年後に原爆の後遺症で白血病を発症して亡くなった方です。入院中の彼女が病の回復を願って折り鶴を折った活動は他の患者にも広がり、やがては国境を超えて平和への祈りを形にするものとして広がりました。佐々木禎子さんは平和記念公園内にある「原爆の子の像」のモデルとなり、今もたくさんの折り鶴が飾られています。
折り鶴は平和を祈るシンボルとなっているわけですが、このコンセプトを踏襲して作られたのが「おりづるタワー」(https://www.orizurutower.jp)です。民間企業が広島の新名所として建設したものだそう。ガイドブックやホームページの情報によれば、
- 広島市内(平和記念公園、原爆ドームなど)を一望できる展望台がある
- 折り鶴を折り、ガラス張りの壁に投入する体験ができる
というのが主なウリのようですが、「入場料1700円は高い」との声や、「原爆ドームや折り鶴を商売にするのはどうか」という批判も見受けられました。とりあえず行ってみないことにはわからないので訪問してみることにしました。
実際に入ってみて気づいたのは「おりづるタワーは広島の過去・現在を知り、未来の平和を願う活動に参加できる施設なんだな」ということでした。
2.おりづるタワーの価値は、過去を心に刻むだけでなく、現在そして未来に目を向けること
おりづるタワーへ行く前に、わたしは原爆ドームと平和記念資料館を既に見ていました。快晴の午後、じりじりとした太陽に照らされて、原爆ドームが建っていました。74年前のあの日から、時が止まっているかのよう。
傍にある慰霊碑の前で手をあわせて祈りを捧げ、平和記念資料館へ進むと、原爆被害の凄惨さが、現場・現物を前にしてリアリティを持って迫ってきます。こうした人類の負の歴史から学ばず、原爆投下の正当性とか、核兵器による戦争の抑止力とか、そんなことを議論する人間はおかしいという気持ちが湧いてきます。
原爆ドームと平和記念資料館は、原爆の被害や戦争の悲惨さを十分に伝えています。過去の負の歴史を心に刻んだ上で、わたしたちは未来に向けてどうすればよいのか?
おりづるタワーでは、広島の過去だけでなく、現在と未来にも目を向けることができます。
①過去を伝える:爆心地と原爆ドームを両方を俯瞰できる
おりづるタワーの12階「折り鶴スクエア」には、原爆ドームと爆心地を両方見ることができる場所があります。誤解されがちですが、原爆ドームそのものが爆心地ではありません。原爆が投下された場所は、原爆ドームから少し離れた病院の上空でした。(右下の写真、水色の建物の右隣)。
おりづるタワー12階の窓際に行ってみると、説明パネルがあり両方を見ることができます。地上からは見えない原爆ドーム内部の構造も、ここからならよく見えます。被爆前はドームの両翼に3階建ての部屋があったそうですが、原爆でドーム以外は崩落してしまったこともよくわかりました。
②現在の姿を見せる:展望台から見える、広島の復興と繁栄
最上階の「ひろしまの丘」は展望台となっており、復興した広島の眺望を楽しむことができます。木のぬくもりがあふれたウッドデッキで、あたたかみのある空間です。ここにはカフェが併設されており、飲み物や軽食を持ち込んで、ゆったりと座ってくつろぐことができます。
普通の展望台と違うのは、ガラス張りではなくオープンエアになっていること。よく見ると危険防止のためネットが張られてはいますが、外気と一体化して心地よい風が吹き抜ける空間になっています。
74年前、おそらくここから見えている範囲すべてが焼き尽くされたのだと思います。それがこんなにも復興したんだ、すごいなあとひたすら感服しました。人間は多くのものを失っても必ず立ち直ることができるんだ、と元気をもらえる空間でした。
③未来に目を向ける:平和を願う折り鶴体験
おりづるタワーの3つ目の価値は、広島が発信する世界平和希求の取り組みに、観光客ひとりひとりが無理なく参加できることです。入場料に追加料金(100円)を支払うと、折り紙がもらえます。専用のスペースで平和への願いを裏面に書いた後、折り鶴を折っていきます。
タブレットで折り方の解説動画が見られたり、外国人観光客には各種外国語をマスターしたスタッフの方が懇切丁寧に折り方を教えてくれるなど、サポート体制もバッチリ。
折り鶴はガラス張りの「折り鶴の壁」に投入し、訪れた観光客が協力してこの壁を折り鶴で満たすことで、平和への祈りを形にしようという取り組みです。この折り鶴の壁、投入口の床が一面ガラス張りになっていてなかなかスリルがあります。高所恐怖症の人にはきついかもしれません。
翅を広げた折り鶴を落としてみると、クルクルと回りながらゆっくり落ちていきました。
この折り鶴体験、広島の平和への祈りを外国人に効果的に伝えるツールになっていると思います。
3. ピースツーリズムを実現するために
広島で作られた「ピースツーリズム」という言葉があるそうです。広島を訪れた観光客を通じて、原爆の悲惨さ、戦争の無意味さ、世界平和への願いをグローバルに伝える活動です。
いま広島は、世界中からの観光客であふれています。原爆ドームや平和記念資料館には、呆然と立ち尽くす外国人観光客が多くいました。原爆の被害や戦争の悲惨さはこれらの施設で十分に伝わっていると思います。そして未来の平和のために自分も何かしたい、と思う人も多いのではないでしょうか。
こうしたニーズに、おりづるタワーの折り鶴体験はよくマッチしていると思います。未来に向けた、平和への願いを込めた折り鶴。私たち日本人なら、折り鶴の折り方は誰もが習っているので、この取り組みに自然に参加することができます。しかし、外国人観光客はなかなか折り紙に自力で挑戦することは難しい。そこでおりづるタワーで外国語を話すスタッフの助けを借りながら折り鶴を折り、平和のための取り組みに参加する。これは折り紙に挑戦するという日本文化の体験にもなって一石二鳥です。
おりづるタワーは、外国人観光客を巻き込んだグローバルなピースツーリズムの推進に一役買っていると思います。入場料を高いと思う人が多いからなのか、赤字だとの報道を目にしましたが、もっと良さが伝わるといいのになあと思います。
公式サイト:https://www.orizurutower.jp
所在地:広島県広島市中区大手町一丁目2番1号(原爆ドームから徒歩1分)