石川県立美術館で加賀百万石の文化戦略を思い知った話

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金沢旅行関連記事7回目は、金沢の隠れ観光スポット、石川県立美術館です。

金沢は古くから文化都市として有名で、様々な伝統工芸品や美術館を味わうことができます。金沢でアートといえば、プールでお馴染みの金沢21世紀美術館ですね。現代アートがたっぷり楽しめる美術館です。(こちらの記事に訪問記を書きました↓。)

金沢21世紀美術館 「スイミング・プール」 水中の様子。

金沢21世紀美術館:行ってみてわかったプールの意外な仕掛け3つ

金沢21世紀美術館のすぐ近くに、石川県の歴史的工芸品や芸術品を見ることができる、石川県立美術館(公式サイト:http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp)があることをご存知でしょうか。私が訪問した際には、週末にもかかわらず閑散としており、せっかくいいものが展示されているのにもったいないなあと思ったので紹介します。

コレクション展と企画展どちらを見る?

多くの美術館では、同時並行で複数の展示が行われています。石川県立美術館では、主にコレクション展と企画展とがあり、どちらに入場したいかで展示内容や入場料が変わってきます。

コレクション展と企画展の違いは下記の通り。

  • コレクション展:石川県立美術館の所蔵品を中心とした展示。
  • 企画展:石川県立美術館の所蔵品に加えて、特定のテーマに沿って外部の機関から美術品を借りて実施するテーマ展示。

石川県にゆかりの深い美術品を見たいなら、コレクション展がオススメです。企画展のテーマは時期によって違うので、公式サイトで内容を事前に確認してから行ってみてくださいね。

私は今回コレクション展を鑑賞しました。以下、みどころをまとめます。

コレクション展みどころ①:色絵雉香炉と色絵雌雉香炉(野々村仁清作)

色絵雉香炉、色絵雌雉香炉(野々村仁清作) 石川県立美術館にて

色絵雉香炉、色絵雌雉香炉(野々村仁清作)
石川県立美術館にて

この作品のみ撮影OKでしたので、写真を載せておきます。いずれも雉をモチーフにした、香を焚くための香炉です。江戸時代前期の著名な陶工・野々村仁清作の作品で、加賀藩の2代目藩主、前田利常の頃に伝わったものと言われています。ここでしか見られないものなので、要チェックです。

①左:色絵雌雉香炉(重要文化財)

銀色の濃淡で羽を表し、頭部のみに色絵と金彩を施しています。顔を振り向かせて毛づくろいをしていますが、振り向いた顔面近くの背中部分には香出し穴が空いています。実際に香炉として使われた場合は、背中から出てくる香の煙を雉がくちばしでつついているように見えるのでしょうか。

②右:色絵雉香炉(国宝)

全体的に色彩がとても色鮮やかで、ガラスケース越しに見ても強い存在感を放っています。羽の1枚1枚が金で描かれ、釉薬のツヤと併せてキラキラと光を反射し、とても高級感があります。その一方で顔面は目の周りが真っ赤に塗られ、部分的に金色で描かれた瞳の眼光が鋭く迫力があります。

尚、展示品では見えない、底の部分の写真も解説パネルで見ることができました。底にある煙出し穴付近は少し焦げており、前田家ではこの香炉でたびたび客人をもてなしていたと推測されるそうです。

コレクション展みどころ②:古九谷の名品

加賀藩2代目藩主・前田利常の時代、外様大名であった前田家は不本意ながらも幕府への屈従を余儀なくされていました。そこで文化政策においては、幕府に対抗すべく最新の技術を用いた工芸品の振興を図っていたのだそうです。そのひとつが江戸では作れない色絵磁器。これは素地の地色を生かしつつ、紫、青、緑、黄、赤の5色で絵付けする技法です。石川県では九谷焼が有名ですが、特に古九谷の色絵磁器はその鮮やかな色彩が素晴らしく、前田藩独自の技術として大きなウリとなった技術です。石川県立美術館の展示品は撮影禁止のため、参考までにアメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている古九谷の写真を載せておきます↓。

【参考】青手九谷の例 メトロポリタン美術館所蔵品

【参考】青手九谷の例
メトロポリタン美術館所蔵品

これは青手九谷と呼ばれるもので、素地を塗り埋めて紫、緑、黄色で絵付けし、全体が独特な青緑色に見える作品です。なんとも言えない深い青色が見事ですね。石川県立美術館には古九谷の名品が多く展示されており、江戸時代の卓越した技術を垣間見ることができます。

コレクション展みどころ③:加賀前田家ゆかりの美術品・工芸品

前田家では多くの美術品が収集されていたそうで、それらを管理する公益財団法人・前田育徳会で維持保存が行われています。石川県立美術館では、前田育徳会から出品された前田家ゆかりの品々を多く見ることができます。

特に印象的だったのは、徳川家の葵の御紋がついた婚礼調度。江戸時代後期(1827年)、11代将軍徳川家斉の息女・溶姫が加賀藩13代藩主・前田斉泰へ輿入れした際の婚礼調度です。ちなみに、東京都文京区の東京大学本郷キャンパスは元々加賀藩の屋敷跡に作られたものですが、東大のシンボルとして有名な赤門はこの輿入れの際に建設されたんですよね。

調度類はツヤのある黒漆の地に、金箔で蒔絵が施されたもの。江戸時代のものとは思えないほど、きらびやかで美しく、当時のままの姿をとどめていました。

まとめ:現代まで受け継がれる加賀藩の文化戦略

石川県立美術館の展示を鑑賞してわかったこと。それは、加賀藩が来客をもてなす際、国宝クラスの名品を使っていたことと、江戸にはない最新の陶芸技術を用いた九谷焼などの産業振興を行っていたこと。加賀藩所蔵の美術品に加えて、九谷焼をはじめとした最新工芸技術という唯一無二の文化的競争力を相手に見せつけることになりますから、強権を持つ江戸幕府といえども加賀藩を邪険に扱えなくなりますよね。こうした文化戦略が藩の礎のひとつとなり、幕府と対等に交渉する力を手に入れていったのではないでしょうか。

加賀百万石の文化振興は現代にも受け継がれています。金沢21世紀美術館は東京の国立新美術館についで、日本第2位の入場者数を誇っていますし、金沢には多くの伝統工芸品が息づいています。また、2020年には東京・国立近代美術館の工芸館が金沢に移転し、日本海側初の国立美術館となるそうです。文化都市金沢のさらなる発展が見逃せないですね。

おまけ:ミュージアムカフェは、有名パティシエのプロデュース!

石川県立美術館のミュージアムカフェ、「ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA」

石川県立美術館のミュージアムカフェ、「ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA」

石川県立美術館は、ミュージアムカフェもすごいんです。あの有名パティシエ、辻口博啓さんのカフェ、ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWAが館内にあります。私が夕方16時頃行ってみると、ウェイティングリストで8組が待っていました。私はこのとき時間がなく、入店を泣く泣く諦めてしまったので、これから行かれる方は時間に余裕を持って行ってみてくださいね。

石川県立美術館

公式サイト:http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp