世界遺産・沖ノ島を臨む沖津宮遥拝所が、日本人の宗教観を伝えるタイムマシンだった話

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所
世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所
世界遺産

2017年、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群がユネスコ世界遺産に登録されたとき、わたしは素朴な疑問を持っていました。

「世界遺産の沖ノ島は、一般人の立ち入り禁止。それなのに世界遺産としての見どころあるの?」

しかし、たとえ沖ノ島に渡れなくとも、世界遺産の価値と世界観を十分に伝えてくれる場所がありました。福岡県宗像大島にある宗像大社の社、沖津宮遥拝所です。

1. 沖津宮遥拝所は、「海の正倉院」沖ノ島にいちばん近い場所

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所

福岡県にある宗像大社で御神体として祀られている沖ノ島は、3世紀後半から「神宿る島」として信仰の対象となり、やがて国家政権の勅命による祭祀も執り行われるようになったと考えられています。

沖ノ島への立ち入りは、古来から現代に至るまで厳格に制限され、現在では原則として宗像大社の神官のみが交代で常駐し、神事を行っています。また、下記のように厳しい戒律によっても守られてきました。

  • 沖ノ島で見聞きしたことを口外してはならない(不言様おいわずさま
  • 一木一草たりとも持ち出してはならない
  • 女人禁制
こうして人の立ち入りが厳しく制限されたからこそ、古代祭祀に使われた道具や朝鮮半島との交易の実態が1700年前のまま現在まで保存されており、8万点もの出土品が国宝指定されるほど考古学的に貴重な場所となりました。それゆえ「海の正倉院」とも呼ばれ、これらの考古学的知見が世界遺産登録につながります。

一方で、上陸が制限された沖ノ島を遠くから祈るために設けられた社が沖津宮遥拝所です。福岡市と北九州市のちょうど真ん中あたり、宗像市の玄界灘に浮かぶ宗像大島にあります。アクセス情報は下記の記事にまとめています。

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2019-09-11

2. 沖津宮遥拝所は、古代へいざなうタイムマシンだった

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所(遠景)

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所(遠景)

観光周遊バスのバス停を降りると、草原と海に囲まれた沖津宮遥拝所が見えてきます。近づくと、玄界灘の荒々しくも美しい海を背景に、高台から参拝者を見下ろしつつ、社殿はまっすぐに沖ノ島の方を向いて立っています。

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所(近景)

世界遺産・宗像大社沖津宮遥拝所(近景)

波の音、風の音のみが聞こえる静謐な空間。自然の雄大さと悠久の時を超えた信仰の矜持に圧倒されます。周囲には土産物店や自動販売機など、現代的なものは一切ありませんし、解説パネルや資料館のようなものもありません。沖ノ島が「神の島」として祀られ、祭祀が行われるようになった古来の景観が保存されており、古代にタイムスリップしたような感覚になります。

「えっ、社殿と海しかないの?!なのに行く意味があるの?」と思われるかもしれませんが、これこそが沖津宮遥拝所の本来の姿です。沖ノ島関連世界遺産がユネスコに認定されたのは、古代の信仰のあり方が時代を超えて完璧に保存されてきたからこそ。周囲が変に観光地化されずに、これだけ完全な形で保たれたのは地元の方の努力の賜物です。古代のままの風景が楽しめ、日本古来の宗教観が体験できることこそ、沖津宮遥拝所の唯一無二の価値なのです。

社殿左側にある、沖ノ島を臨む場所。

社殿左側にある、沖ノ島を臨む場所。

社殿の傍らには、沖ノ島に祈りを捧げる場所があります。目の前は海のみ。この日は残念ながら沖ノ島を見ることはできませんでしたが、この場所に立つと、古来から伝わる日本人の宗教観がよくわかります。海や島など、自然そのものに宗教的価値を見出し、祈りを捧げる自然崇拝です。

沖ノ島の方角を見た時の眺望。海が美しい。

沖ノ島の方角を見た時の眺望。海が美しい。

沖ノ島が神格化された理由のひとつは、地理的要因だと考えられています。弥生時代ごろから朝鮮半島と九州北部の交流が始まったと考えられていますが、玄界灘は波が荒いことで知られており、海を渡り朝鮮半島と交易するには多くの危険が伴いました。そんな状況の中、本土と朝鮮半島との直線航路上に沖ノ島があることによって、正しい方角を見失うことなく航海の安全が保障されたのです。

沖ノ島と朝鮮半島、宗像の位置関係

沖ノ島と朝鮮半島、宗像の位置関係

もし1700年前、近代的設備のない船で朝鮮半島に渡らなければならないとしたら、間違いなく命がけです。出航にあたって沖ノ島が海上に見えていることは無上の安心に繋がったことでしょう。まさに玄界灘に浮かぶ絶海の孤島でありながら、灯台のような役割を果たしていたのです。沖津宮遥拝所に立ってみて、おそらくこれが「神の島」として崇められた由来だろう、とわたしは直感しました。沖ノ島の存在によって航海の安全が保たれ、命拾いした人も多かったのかもしれません。大海の中で方角を教えてくれる、その重要性が神格化されていった理由のひとつでしょう。

3. 「神宿る島」沖ノ島が見えるかは運次第!「みちびき沖ノ島アプリ」を活用しよう。

天候と運が良ければ、沖津宮遥拝所から沖ノ島を遠望することができます。古来は大気汚染がそれほどなかったでしょうから、かなりの確率で沖ノ島が見えたのかもしれませんが、現在では沖ノ島がきれいに見えるのは1年のうち75日ほどなのだとか(ガイドさん談)。

ちなみに沖ノ島の方向を知るには、無料スマホアプリ「みちびき沖ノ島アプリ」(iOSとAndroidに対応)がおすすめ。(紹介サイトはこちら:https://okinoshima-app.jp/?locale=ja

アプリを起動して「沖ノ島を探す」をタップすると、スマホのカメラが起動し、GPSで沖ノ島の方向を教えてくれます。沖津宮遥拝所でアプリを起動してみました。

「みちびき沖ノ島アプリ」画面

「みちびき沖ノ島アプリ」画面

この日は晴天にもかかわらず靄がかかっていて、見ることができませんでした。日頃の行いが悪かったか?!方角は合っているのですが…、残念。

ちなみに、「沖ノ島を眺める」をタップすると、宗像大島から沖ノ島を遠望するライブカメラの映像が見られます。これはネットに繋がってさえいればどこにいても見られるので、たまに起動してみるとタイミングによっては沖ノ島が映っていることがあります。たとえばこれは、2019年7月30日にライブカメラを起動してみた時のスクリーンショットです。うっすらと沖ノ島が見えています。

運が良ければ、宗像大島から沖ノ島がこんなふうに見えるようです。(沖ノ島ライブカメラ画像)

運が良ければ、宗像大島から沖ノ島がこんなふうに見えるようです。
(沖ノ島ライブカメラ画像)


世界遺産・沖ノ島の世界観を体感するには、この沖津宮遥拝所は外せないポイントです。アクセスに少々難はありますが、世界遺産好きなら「行って良かった!」と思えるおすすめスポットです。