顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー:楷書の美に圧倒された話

東京国立博物館 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
東京国立博物館 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
アート

一昨日より東京国立博物館で開催中の特別展、「顔真卿がんしんけい ー王羲之おうぎしを超えた名筆ー」展。本展最大の目玉である祭姪文稿さいてつぶんこうについては別記事にまとめました↓が、

東京国立博物館 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」

顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー:刮目せよ!これが顔真卿による渾身の書、祭姪文稿だ!!混雑状況と鑑賞の注意点も。

2019-01-17

文字の誕生から書体の発達に加えて、楷書の名筆が網羅されていますので、それについても併せて本記事でまとめたいと思います。

漢字の成り立ちと、書体の発展

書体の発展は、甲骨文字→金文→篆書てんしょ隷書れいしょ→楷書

中国において、そもそも文字が生まれたのはいんの時代(紀元前14世紀頃)。ものの形をかたどった「甲骨文字」(占いの結果を亀の甲羅や獣の骨に刻んだもの)が最初の書体で、そこから青銅器に刻まれる用途で用いられた金文が生まれました。様々な書体が各地で作られる中、中国を統一した秦の始皇帝が紀元前200年頃に文字を統一。これが篆書として確立されました。そこから、画数を減らすなど、書きやすさと美しさを追求する中で隷書が作られ、最終的には私達が学校で習う楷書が作られました。本展では、入口入ってすぐの「第1章 書体の変遷」に全ての書体が展示されていますので、漢字がどのように生まれ、書体が変化していったのかを肌で感じることができます。

特に分かりやすくすごいのは、唐時代の玄宗皇帝の手による隷書、「紀泰山銘」です。この作品のみ撮影OKでしたので、画像を載せておきます。画像ではなかなか伝わらないと思うのですが、ものすごく巨大です。サイズは縦13.2m ×横5.3m。中国・山東省泰安市にある泰山の頂上の岩に刻まれた隷書です。これをすべて皇帝が書いたことにも圧倒されるけれど、岩にすべて刻むのも果てしない作業だなぁ…と思える圧巻の迫力。一字一字を見ても力強く活力が溢れていて、皇帝の権威を感じさせます。

太宗皇帝筆 「紀泰山銘」(東京国立博物館所蔵)

太宗皇帝筆 「紀泰山銘」(東京国立博物館所蔵)

驚いたのは、楷書は7世紀頃に完成された後、基本的な形がほとんど変わっていないこと。日本で今使われている漢字と同様のものが、7世紀の書に書かれているんです。楷書に至るまでに甲骨文字から篆書や隷書が作られてきたように、書きやすさと美しさを追求した結果、1300年前にはすでに究極の文字に到達していたんですね…。自分が普段何気なく使っている文字が、長年の試行錯誤を経て極限まで洗練されたものだったとは。

王羲之、初唐の三大家(欧陽詢、虞世南、褚遂良)の楷書の名作が揃い踏み!

王羲之の名作・楽毅論

王羲之は4世紀に活躍した書の名人で、書聖と呼ばれています。数々の傑作を生み出していますが、その中でも楽毅論がっきろんは楷書の名作として知られています。

唐の太宗皇帝は王羲之の書が好きすぎて、王羲之の一族からスパイを使ってでも作品を入手しようとしたのだとか。そして皇帝は自らの死後、王羲之の書と一緒に埋葬するよう指示したため、王羲之の真筆は残存していないのだそうです。あああ、人類の宝を…もったいない。でもそれだけ、王羲之の書には素晴らしい魅力があったということですよね。

初唐の三大家

中国、7世紀中頃に活躍した書の名手は、「唐の三大家」と呼ばれています。それは欧陽詢おうようじゅん虞世南ぐせいなん褚遂良ちょすいりょう。本展では唐の三大家の代表作が網羅されており、比較鑑賞できるようになっています。

  • 九成宮醴泉銘きゅうせいきゅうれいせんめい(欧陽詢)

楷書の名筆として最も有名なものの一つ。「楷法の極則」と呼ばれ、書道で楷書を習う際に、お手本とされるものだそうです。

西暦632年に、唐の太宗皇帝が離宮である九成宮を散策していると、甘く美味しい水の湧き出る泉(醴泉)を見つけ、これは帝国に吉事がもたらされる前兆に違いない、と記念碑を建てる勅命が下り、欧陽詢が碑文を書いたものです。

欧陽詢 九成宮醴泉銘(部分) 画像はWikimedia Commonsより

欧陽詢 九成宮醴泉銘(部分)
画像はWikimedia Commonsより

  • 雁塔聖教序がんとうしょうきょうじょ(褚遂良)

「西遊記」でも有名な、玄奘三蔵の功績を讃える内容の碑文を褚遂良が書いたもの。こちらも書道を習う際に、楷書の手本とされる名作です。

  • 孔子廟堂碑こうしびょうどうひ(虞世南)

太宗皇帝が孔子廟を再建した際、勅命により虞世南が碑文を書いたもの。

九成宮醴泉銘、雁塔聖教序、孔子廟堂碑にはそれぞれ王羲之の影響が強く感じられたのですが、唐の三大家どうしを比べても少しずつ書法に違いがあります。

会場の「第2章 唐時代の書 安史の乱まで」には各書家の文字がどのように書かれているか、わかりやすく示す映像(数分程度)が見られます。たとえば「風」という一文字の字形や線質、余白の取り方がどのように違っているかが動画で解説されています。書家ごとの違いが浮き彫りになって面白かったです。会場でも現物を見ながら、ぜひ比較してみてください。

顔真卿の楷書もいい!

本展では王羲之や唐の三大家の楷書と、顔真卿の楷書が同時に展示されているので、比較鑑賞が可能となっています。顔真卿の楷書は線が太めで力強い印象。音声ガイドを借りたところ、特別附録で顔真卿の楷書「顔氏家廟碑」のお手本がついていました。チャレンジで書いてみる欄があるけれど、臨書する勇気が出ないほど、キレイ…。

顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー 音声ガイド附録

顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー 音声ガイド附録

王羲之や唐の三大家の楷書と比較すると、顔真卿の書は毛筆で書かれているにも関わらず、ゴシック体のように見えてきます。遠くから見たときにも文字が見やすく、読みやすさを工夫して作られたフォントのような美しさです。一方、近づいてみると、フォントでは到底再現できない、確かな筆遣いが感じられます。他にも顔真卿の楷書が展示されていますので、ぜひチェックしてみてください。

あわせて読みたい

書道の魅力をもっと知りたいなら、入門書としてオススメなのは書道漫画「とめはねっ!」。顔真卿の祭姪文稿のほか、本記事で取り上げた九成宮醴泉銘、孔子廟堂碑、雁塔聖教序も出てきますよ。

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特別展 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1925
会期:2019年1月16日〜2月24日
場所:東京国立博物館 平成館