松方コレクション展:国立西洋美術館の底力。新発見のモネの大作「睡蓮」を見逃すな!美術品の裏に激動の現代史が見えてくる。

松方コレクション展(国立西洋美術館)
松方コレクション展(国立西洋美術館)
アート

2019年6月11日から東京・上野の国立西洋美術館で開催中の松方コレクション展へ行って来ました。松方コレクションとは、国立西洋美術館の所蔵美術品の中核を成す作品群で、モネをはじめとするフランス印象派の絵画やロダンの彫像がその代表です。通常は国立西洋美術館の常設展で公開されていますが、常設展では一部の作品を展示替えしながら展示されているため、私は松方コレクションの全貌がよくわかっていませんでした。今回初めて、広大な企画展示室のスペースでその全貌を見て、松方コレクションのスケールの大きさと、それら美術品が辿った運命が歴史のダイナミズムそのもので、ただただ圧倒されたのです。そして新たに発見されたモネの大作「睡蓮、柳の反映」も見逃せないポイントでした。

開国後わずか50年で、ヨーロッパの美術品を買い占めた実業家

日本が明治維新を迎えたのは1868年。ここから日本は西欧に追いつけ追い越せの富国強兵政策を加速させていきますが、このころ川崎造船所の社長として経営手腕を奮い、莫大な利益をあげたのが松方幸次郎氏でした。第一次世界大戦に造船業で得た利益で、イギリス・フランスで美術品収集を開始します。そして収集した美術品を私設美術館で公開することを念頭に置き、構想図面まで作っていました。これが1910年代~20年代のこと。明治維新になってからわずか50年程度で、西洋美術の価値に気づき、一流の美術館を日本に開設するぞ!という先進的なビジョンを持っていたなんて、ただ者ではありません。

そして本展の展示室で収集された作品群をみるとその数とクオリティに度肝を抜かれます。モネ、ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャン、ドガ、マネ、ピカソ、ムンク…など、有名どころが勢揃い。松方氏のヨーロッパ滞在は合計4年程度であったようですが、この短期間によくここまで集めたな…と、美術品収集に対する圧倒的な熱量を感じたのです。(下記は以前、常設展に展示されていたモネの睡蓮(松方コレクション)の写真。)

クロード・モネ「睡蓮」(国立西洋美術館・常設展にて撮影)

クロード・モネ「睡蓮」(国立西洋美術館・常設展にて撮影)

いったい何が、松方氏をここまで美術品収集に駆り立てたのか?あくまでも想像ですが、早くから欧米に留学して西欧の習慣を学んでいた松方氏は、美術の世界でも「欧米に追いつけ追い越せ」を達成したかったのかもしれません。西欧の有名美術作品は、一般教養として会話の中に出て来ますし、映画や文学作品の題材になることもあります。西洋美術は欧米人と対等にコミュニケーションするうえで知っておくべき教養の一つと考え、それを日本に根づかせ、文化面でも西欧と対等に渡りあえる国にしたいという思いがあったのではないでしょうか。

松方コレクションの受難。そして今回、ゴッホの名作が里帰り!

第一次世界大戦でビジネスマンとして大成功した松方氏でしたが、その後関東大震災、昭和の大恐慌を経て会社の経営が悪化します。債務整理のために美術品コレクションの一部を手放さざるを得ない事態に陥りました。さらに不運なことに、ロンドンに残されていたコレクションが火災で焼失。フランスに保管されていた作品は、第二次世界大戦でナチスによる略奪を避けるために疎開させたものの、戦後になってフランスは「敵国資産」として一部の重要作品を返還しませんでした。要するに傑作は日本に返したくないということ。敗戦国はつらいよ…。

ゴッホ「アルルの寝室」(1889年、オルセー美術館)

ゴッホ「アルルの寝室」(1889年、オルセー美術館)

本展ではフランスから戻ってこなかった作品の一つ、ゴッホの「アルルの寝室」が里帰りして展示されています。うーん、悔しいけど、これを日本に帰したくないと思うフランスの気持ちもちょっと分かる…。

そのほかにも、債務整理のために売却された作品であるマティスの「長椅子に坐る女」など、里帰り作品の数々が展示されており、かつての松方コレクションの規模を知ることができます。

新発見!モネの大作「睡蓮、柳の反映」

美術品収集に対する松方氏の熱量をよく表すエピソードのひとつが、フランス印象派の有名画家、クロード・モネとの交流です。松方氏はモネの自宅に足を運び、作品を譲ってくれないかと直接交渉しました。最終的に、モネ自身が売るつもりのなかった作品を入手することに成功しているので、よほど熱心に自分の思いを伝え、モネの信頼を勝ち得たのではないでしょうか。

松方氏がモネから譲り受けた作品のうち、行方不明だった作品が2016年にフランスで発見され、松方家を経て国立西洋美術館に寄贈されました。晩年のモネが精力的に取り組んでいた「睡蓮」の大作のひとつです。

しかし残念なことに、保存状態が悪く上半分が損傷されていました。国立西洋美術館が総力を結集して復元し、修復を終えたものが展示されていますが、残念ながら上半分は欠落した状態です。それでも夜の池に柳が写り、ところどころにピンク色の睡蓮の花が浮かび上がる見事な色彩や、モネの躍動感あふれる筆づかいが縦2m×横4.25mの画面いっぱいに感じられ、ただただ感動です。

クロード・モネ「睡蓮、柳の反映」(1916年)※AIによるデジタル復元

クロード・モネ「睡蓮、柳の反映」(1916年)
※AIによるデジタル復元

上記画像は撮影コーナーで見られる、全体を復元した画像データです。失われた上半分の色彩はAIで復元し、AIでの再現が難しい筆づかいは画家の方に協力してもらい、それらを融合して完成した復元だそうです。美術品の復元にもAIが活用できるとは!今後の進化に期待です。


第二次世界大戦の疎開中に生じた混乱が原因で、半分が損傷してしまった「睡蓮、柳の反映」。これが象徴するのは、戦争が美術品に与える負の影響です。松方コレクションの経緯を知れば知るほど、美術史だけでなく激動の現代史が見えてきます。これから夏にかけては、戦争が社会に与える影響が改めて議論される時期。ちょうどこの時期に開催される松方コレクション展は、名画を楽しめるだけでなく美術品が現代史の中で翻弄された歴史を感じ、戦争について改めて考えるきっかけをくれる展覧会です。

松方コレクション展

会期:2019年6月11日〜9月23日

会場:国立西洋美術館

公式サイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019matsukata.html

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