東京緊急事態宣言日記4:ニコニコネット超会議を見て、東大寺大仏の見方が変わった話

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緊急事態宣言が発令されてから最初の週末、自宅でだらだらと過ごしつつSNSを見ていたら、ニコニコ動画のネット超会議で奈良の大仏からの生中継があることを知りました。通常非公開の法要の様子が見られ、なおかつ大仏前からのネット中継は初めてだということで視聴してみました。そして新型コロナウイルスが蔓延している中で、ようやく奈良の大仏が造られた意味を身をもって理解することができたのです。

去年の今頃、ちょうど国宝・曜変天目茶碗の三碗同時公開があり、大阪の藤田美術館所蔵の曜変天目が奈良国立博物館で展示されるということで奈良を訪れました。そのとき東大寺の大仏殿にも立ち寄ったので、東大寺の参道で鹿と戯れつつ、運慶・快慶の手による南大門の金剛力士像を前にしてその芸術性に圧倒され、大仏様の巨大さと細部にまで作り込まれた造形美やスケール感を感じたことは鮮明に記憶に残っています。しかし、この時は「1200年前によくこれだけのスケールのものを作ったな~」と圧倒されたものの、あまり深く考えずにお参りしただけで満足していました。

東大寺大仏殿(2019年4月撮影)

東大寺大仏殿(2019年4月撮影)

このとき大仏建立の経緯について「疫病が蔓延し、聖武天皇が仏の力による国家守護を願って実行された」「当時は疫病や飢饉が為政者の責任とされ、国家事業として行われた」という説明を見て、「科学が発達していなかった時代は大変だったんだなぁ」と呑気な感想を持っていました。しかし、いざ自分が新型コロナウイルスの蔓延に巻き込まれてみると、当時の疫病の様子がよりリアルに想像できます。

聖武天皇が治めていた天平時代、天平の疫病大流行(735年~737年)により日本の総人口の30%程度が死亡したと言われています。疫病の正体は天然痘です。天然痘は天然痘ウイルスによる感染症で、伝染力が非常に高く空気感染すること、死亡率が高い(20~50%)ことからたびたび人類を恐怖に陥れてきたウイルスです。効果的なワクチンの開発によって既に天然痘ウイルスは根絶されており、わたしたちには馴染みのない病気となっていますが、現在の医学や科学がまったくない状態で新型コロナウイルス感染症に対峙するようなものと考えたら、奈良時代の人々の恐怖を実感を伴って理解できるのではないでしょうか。

そもそも当時は、「病原体」や「微生物」という概念がありません。電子顕微鏡がないのですから、病原微生物の存在を突き止める手段は皆無です。さらに衛生概念や消毒薬の知識、医療もありません。何が原因で人が次々と倒れていくのかも分からないまま、生き残れるかどうかは運と免疫力がすべてです。できることといえば流行地から逃げ出すか、神仏に祈りを捧げるのみ。そして疫病は身分にかかわらず広がります。当時国政の中枢にあった藤原氏の四兄弟も犠牲になりました。現代医学や科学がなかった時代、有効な感染拡大防止策は実行されず、当然ながら現代レベルの病院もありません。救命医療のない中、疫病の終息は集団免疫によってもたらされました。終息までに当時の総人口の30%程度が死亡したと言われており、壮絶さを物語っています。さらに、当時は「疫病の蔓延や天変地異は、為政者の徳の低さに起因するもの」と考えられていたのも酷な話です。当時の天皇であった聖武天皇はこの事態に責任を感じて743年から東大寺の大仏建立に着手しますが、これだけの災厄の責任を負わされたら病みますよね…。正体の分からない病魔に対する恐怖・やるせなさの矛先を向ける仮想敵を作り出してしまった形です。こうした風潮の中、聖武天皇が巨大な大仏建造に駆り立てられるのも無理はありません。

奈良の大仏(2019年4月、筆者撮影)

奈良の大仏(2019年4月、筆者撮影)

昨日のニコニコ超会議で東大寺の方の話を聞いていたら、大仏建立には当時の人口の半分(260万人)が動員されたとのこと。えええ、そんなに?!と驚きつつも、1200年前にこれだけの規模のものを造るのだから、そのくらいの人員は必要なのかなと納得した部分もありました。しかし、その一方で、日本の人口の半分を奈良に集めて大仏を造らせるって、感染症対策としてはどうなのか?とちょっと怖くなりました。日本の人口の半分=当時の労働人口のほとんどを奈良に集め、3密状態で肉体労働して、もしここで疫病が流行したら一体どうするつもりだったのか…。状況的に復興の手段として仏教の力で国を救うしかなかったんだと思いますが、現在の科学から見れば感染症を再燃させかねない事業を立ち上げていてヒヤヒヤします。もしかして、天平の疫病大流行の最中にも、大量に人を集めて神仏へ祈りを捧げていたりもしたんじゃないでしょうか…もしそうだとしたら、解決を目指して実行していたことがかえって仇となるやつですよね…。

そう考えると、いま新しい疫病のただなかにありながらも、奈良時代の人々に比べればわたしたちは遥かに恵まれていると思います。

  • 敵の正体がウイルスであることが分かっている
  • ウイルスの検査方法が確立されつつある
  • どういう行動で感染が広がるのかが解明されつつある
  • 治療薬やワクチンの開発が急ピッチで進められている
  • ウイルスに対する有効な消毒薬・消毒方法を知っている
  • すべてではないけれど、テレワークでできる仕事がある
  • ネットで国内外の最新情報が手に入る
  • ネットやSNSで友人知人とつながれる
  • ネット通販で感染リスクの低い買い物ができる
  • あらゆる観点からみてベストな対処方法が「家にいる」ことだと知っている
ただし、新型コロナウイルスの感染が広がり医療崩壊が進めば、「医療のない状態で集団免疫を待つ」という奈良時代と同じような状態に陥ってしまいます。わたしたちは、過去から学び、科学と医療の力で1200年前よりも有利に戦えるはず。とにかく自分にできることとして「家にいる」ことをできる限り徹底しようと思っています。