2018フェルメール展感想:コスパ最強のフェルメール・ルームを見逃すな

アート

本日スタートしたフェルメール展(上野の森美術館)へ行ってきました。

https://www.vermeer.jp

フェルメール作品は三十数点しか現存していないそうですが、そのうち8点が日本の美術館に集まる機会はほとんどないと思ったので、初日の朝9時半の回を予約していたのでした。入場券は日時予約制なので、思いついたときに美術館へ行ってもすぐに入れない可能性が高いです。事前にインターネットで予約しておくのがお勧め。事前予約は多少手間ではありますが、著名作品が集結しているにもかかわらず日時指定なので激しい混雑はなく、比較的ゆったりと見られるのが有難かったです。

フェルメール展はコスパ最強

日時指定券なので、ゆったりと開館時刻=予約時間ちょうどに到着したのですが、まさかの長い入場列が…。(美術館入口は写真の左端です。)

長蛇の列にビビっていたのですが、意外と進みが早く、15分くらい並んだら入れました。雨が降っていて肌寒かったので、助かった~。

通常美術展では作品の横に小さな文字で作品解説が書いてあり、その部分に人が集まって混雑し列が滞留するうえに、作品解説がまったく読めない場合もしばしばです。今回は入場者全員に作品解説ミニ冊子が配られており、手元でめくりながら作品解説を読めます。混雑や美術館の動線を考慮して、運営が工夫されていて素晴らしいと思いました。また、音声ガイドが入場料に含まれており、入館者全員に貸していただけるところもありがたいポイント。10月14日までの日時指定チケットを買うと、作品のブックマークが特典としてついてきます。ちょっとお得。

今回のコンセプトはフェルメールと同時代の他のオランダ画家を同じ展覧会で鑑賞することで、17世紀のオランダの文化を紹介することと、他の画家と比較してフェルメール絵画にはどのような特徴があるのかを浮き彫りにすることのようです。序盤には同時代のオランダ画家の肖像画、宗教画、風景画、静物画、風俗画と続き、最後にフェルメール・ルームにて8点のフェルメール作品を同じ部屋で比較しながら見ることができます。今回上野の森美術館に来ているフェルメール作品8点は、数カ国に分散して所蔵されているため、1つの部屋で比較鑑賞する機会はそうそうないと思われ、とても贅沢な美術展でした。チケットは大人2500円ですが、世界中の所蔵元を旅してオリジナルを見るコストを考えれば、十分ペイするのではないでしょうか。ちなみに、フェルメール展公式ガイドブックが予習にお勧め。私は鑑賞後にミュージアムショップで購入したのですが、事前に読んでおけば展覧会をもっと楽しめたのに、と後悔してます。いわゆるお堅い美術評論ではなく、初心者にも分かりやすい解説で、するっとアートの世界に入っていけます。

光の魔術師と呼ばれる所以、盗難被害作、真贋がグレーの作品も

今回来日している作品を並べて鑑賞して、フェルメールが「光の魔術師」と呼ばれる理由が少し分かったような気がしました。画面の左右どちらかに光源(多くは窓)があり、そこから差し込む光の明暗と陰影の描写が巧みで、本来狭いはずの室内が広がりをもって見えます。床の模様(市松模様など)や窓枠の線が大胆な遠近法で描かれている作品もあり、それも不思議な空間の広がりに一役買っているのかもしれません。例えば「ワイングラス」(ベルリン国立美術館蔵)では床の市松模様が画面右上に向かって急速に密に描かれ、部屋の奥へ吸い込まれそうな印象を受けます。↓

やはり傑作と名高い「牛乳を注ぐ女」(アムステルダム国立美術館蔵)には惹きつけられました。

メイドが身につけているフェルメール・ブルーと呼ばれる鮮やかなブルー(絵の具にラピスラズリを使っているそうです)のエプロンと、黄色の上衣のコントラストがまず目に飛び込んで来ます。メイドの衣装は上衣が黄色、エプロンが青、スカートが赤と信号色なのですが、信号のようなどぎつい印象はまったくなく、全体と見事に調和しています。この頃絵の具は画家が自ら原料を混ぜて調合していたそうですから、色作りにも非凡な才能があったんですね。

他に気になっていた作品は「手紙を書く婦人と召使い」(アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵)と「赤い帽子の娘」(ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵)でした。
「手紙を書く婦人と召使い」は1974年、アイルランドの分離独立を目指すグループによって交渉のカードとするために盗まれ、その際に損傷を負ってしまったそうです。(右写真赤線部分)

最終的に犯人は逮捕され、絵は返還されたのですが、写真の赤線部分に擦り傷が残り、修復が行われました。その際、別の画家によって書き加えられた部分をオリジナルに戻す作業も行われ、フェルメール作のオリジナルには画面右下に赤い封蝋(写真赤丸印)が描かれていたことが分かったという経緯があります。作品そのものの素晴らしさはもちろんですが、損傷はどれだけ修復できたのかというところにも興味があったのです。実際実物を見てみると、そうと知らなければ損傷はまったく分からないくらいに修復されていました。修復技術ってすごいんですね。無事に作品が戻り、鑑賞することができて本当に良かった。左側の窓から差し込む光の描写と、美術品を取り巻く社会状況の光と影にも思いを馳せられる作品です。

「赤い帽子の娘」は贋作ではないかとする説があるそうです。

専門的な鑑定では絵画に使用されている絵の具やキャンバスの分析や、膨大な資料から学術的な結論を出すので、私のような素人が判定できるものではありませんが、今回実物を見てなぜ疑惑があるのかちょっと分かるような気もしました。明らかに周囲に展示されている作品と違う雰囲気なのです。全体的にピンボケで、人物や物の輪郭がよく分からない。有名な「真珠の耳飾りの少女」と逆向きに振り向いており、この赤い帽子のモデルも真珠の耳飾りをつけているのですが、表情の描写が他の作品と違う印象を受けました。顔の各パーツがはっきり描かれておらず、表情を読み取ることができないので謎めいた雰囲気が残ります。実際に他の作品と比べてみて、自分が真贋についてどう感じるか?も見どころかもしれません。(※本作品の展示は終了しています)

盗難や贋作疑惑があるということは本来よろしくないことなのですが、それだけフェルメール作品が世界中で高く評価されていることの証でもありますね。

フェルメール展、本当にオススメです。今回来日している作品の多くは小さな作品(例えば、「牛乳を注ぐ女」は46cm×41cm)であるうえ、混雑のため至近距離で鑑賞できるわけではないので、細部までしっかり見たい方は双眼鏡や単眼鏡を持参することをお勧めします。ちなみに私はこちらの単眼鏡を使っています。会場で大活躍してくれました。来年1月9日以降に新しい作品が展示されるようなので、もう1回くらいリピートするかもしれません。

【後日追記】

2019年1月9日から新たに展示が始まった「取り持ち女」を見てきました!感想はこちら↓

フェルメール展感想:日本初公開の「取り持ち女」は必見!最新の混雑状況も。

2019.01.09

私は行く前に「盗まれたフェルメール」(朽木ゆり子著、新潮選書)を読んでみました。フェルメールの盗難事件について、事実ベースで事件の発生/捜査の経緯、犯人像、動機、ブラックマーケットにおける美術品取引などが網羅されているのですが、まるでミステリー小説を読んでいるように面白く、一気に読んでしまいました。お勧めです。

※このエントリーに使用している画像は、美術館外壁のフェルメール展パネルを筆者が撮影したものです。一部加工を加えたものもあります。
※このエントリーを執筆するにあたって、上記「盗まれたフェルメール」に加え、「フェルメール展公式ガイドブック」(朝日新聞出版)を参考にさせていただきました。