顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー:刮目せよ!これが顔真卿による渾身の書、祭姪文稿だ!!混雑状況と鑑賞の注意点も。

東京国立博物館 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
東京国立博物館 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
アート

昨日より東京国立博物館で開催中の特別展、「顔真卿がんしんけい ー王羲之おうぎしを超えた名筆ー」展へ行ってきました。
文字(漢字)の成り立ちから中国の歴代書家の作品、そして今回の目玉である中国・唐時代の書家、顔真卿の名作と名高い、大変貴重な祭姪文稿さいてつぶんこうを見ることができ、私のような書道初心者でも書の歴史が分かるようになっていて、大変お値打ちな展覧会でした。特に祭姪文稿には圧倒され、自分の中で書の概念が覆るほどの衝撃を受けたので、以下にまとめたいと思います。

ガイダンスコーナーの映像でまずは予習!

本展は東京国立博物館・平成館の2Fで開催されていますが、入り口エスカレーターを上がる前の右手に「ガイダンスコーナー」があります。ここでは「顔真卿〜唐王朝を救った名筆〜」というタイトルの映像(13分間)が流されており、誰でも見ることができます。鑑賞の前後に見ておくと、より展示を楽しめるのでオススメです。

肉親を失った悲しみを筆にこめた渾身の名作、「祭姪文稿」は必見!

本展の目玉は、台湾の国立故宮博物院に所蔵されている祭姪文稿さいてつぶんこう(日本初公開)です。唐の時代(758年)に書かれた、顔真卿の原筆です。拓本や写本ではなく、約1300年前の原筆が奇跡的に保存されているのです。所蔵元の国立故宮博物院でもめったに一般公開されないそうなので、ましてやこれが日本で見られるのはこの上なく貴重な機会です。

顔真卿「祭姪文稿」国立故宮博物院所蔵(画像はWikimedia Commonsより)

顔真卿「祭姪文稿」国立故宮博物院所蔵(画像はWikimedia Commonsより)

祭姪文稿は、戦死した肉親を追悼するために書かれた文章ですが、実は草稿なんです。よく画像を見てみてください。塗りつぶしたり、線で字を消したりと、推敲したあとがありますよね。人に見せるために書いていない下書き段階のものなのに、なぜ祭姪文稿は傑作と言われるのか。なぜ人の心を揺さぶるのか。それを知るためには、この書が書かれた背景を知る必要があります。

祭姪文稿の背景にあるストーリー

時は西暦755年(唐の時代)。当時の皇帝・玄宗は世界三代美女のひとりである楊貴妃に溺れ、政務への関心を失っていた頃でした。皇帝の楊貴妃に対する寵愛を足がかりとして、楊貴妃の親族が政権内で実権を握りはじめ、この状況に反感を持った人物が反乱を起こしたのです(安史の乱)。平和ボケした唐の軍勢はあれよあれよという間に反乱軍に攻め込まれ、首都である長安は反乱軍に占領され、皇帝は首都を捨てて逃亡。顔真卿の一族は反乱軍を迎え撃ち、一定の成果を挙げます。しかし、味方の王承業おうしょうぎょうという人物から裏切られたことも災いし、戦闘の中で顔真卿の甥である顔季明がんきめいが父親である顔杲卿がんこうけいの目の前で斬首されてしまいます。

理不尽な出来事ですよね。ちょっと想像してみてください。顔真卿の一族は主君に忠誠を尽くして、反乱軍と勇敢に戦ったのに、美女に溺れていた皇帝は反乱の勃発に対して適切な対応ができず、オロオロと逃げるのみ。味方には裏切られ、将来有望な甥が残虐なやり方で処刑されてしまう…。
顔真卿は顔季明を追悼する文章を書きました。それが祭姪文稿です。

祭姪文稿からほとばしる、顔真卿の感情の渦

上記のストーリーを踏まえて、もう一度祭姪文稿を見てみましょう。最初こそ冷静な様子で書かれていますが、途中から感情が昂り推敲を繰り返し、最後の方は行が歪んでいます。
1300年の時を超えて、当時の顔真卿がどんな様子でこの書を書いていたのか、字の様子から伝わってくるんです。もしかしたら、泣きながら書いていたのかもしれません。悲しみや怒りをはじめとした、あらゆる感情がこの書から現代の私たちに迫ってきます。

肉親を亡くした悲しみと悔しさ。
父親の見ている前で、息子を斬首するむごたらしさ。
信じていた同僚に裏切られた怒り。
忠義を尽くしていた主君が美女に溺れ、政治力を失っていたやるせなさ。
戦争の悲惨さ。

歴史書などでは「顔季明は捕虜となり、処刑された」と、たった一行で淡々と記載されてしまう出来事でも、その裏には顔季明を失った肉親の悲痛な叫びがあるのだということを改めて思い知らされます。
これらの感情は、現代の私達にも共通する普遍的な感情ですよね。この書を見ると、1300年前の人物に共感することができ、感動するのです。

卒意そついの書

草稿など、作品にするつもりで書いていない書のことを書道の世界では「卒意の書」と呼ぶそうです。「卒意」の対義語は「作意」。つまり「卒意の書」とは作意なく書かれた書のことを示しています。祭姪文稿は下書きですから、まさに「卒意の書」です。見る人に自分の技量をアピールしようとか、間違えずにうまく書こうとか、そういったことは一切考えていません。ただただ、甥の非業の死が悲しく、悔やまれてならない。その気持ちをまっすぐにぶつけた書なのです。だからこそ、時代を超えて人の心を揺さぶり続けているのだと思います。

混雑状況と鑑賞の注意点

祭姪文稿の展示室では整列ロープが設置されており、列に並んで見る形になります。私が訪問した際は、平日午前中にも関わらず30人ほど並んでいました。立ち止まって鑑賞することはできないため、ゆっくりと進みながら鑑賞することになります。じっくりと見たいなら、再度列に並び直さなければなりません。列の長さはタイミングによって変わるので、空いている頃合いを見計らって並びましょう。

列に並ぶ間、そばに解説パネルがあるので見てみてください。詳しい注釈がついているので、実物を見る前に内容がしっかりと理解できるようになっていますよ。

ミュージアムグッズも秀逸

公式サイトには様々なオリジナルグッズが掲載されています(https://ganshinkei.jp/goods.html)が、中でも小皿がいいんです。祭姪文稿の文字からとった「心」と「愛」という文字だそうですが、醤油を入れると墨の濃淡が醤油の色合いの濃さで表現され、顔真卿の文字が浮かび上がってきます。こちらは各1600円。鑑賞後にぜひチェックしてみてください。

「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」ミュージアムグッズ。

「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」ミュージアムグッズ。

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特別展 「顔真卿 ー王羲之を超えた名筆ー」
公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1925
会期:2019年1月16日〜2月24日
場所:東京国立博物館 平成館