曜変天目完全制覇プロジェクト②MIHO MUSEUMで国宝と重要文化財を同時に楽しむ。ふたつの曜変天目の違いを見れば、その希少価値が見えてくる。

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平成最後の国宝一挙大公開イベント、曜変天目三碗同時公開。このまたとないチャンスを逃すまいと、三碗を完全制覇することにしました。東京都内在住の筆者は、まず静嘉堂文庫美術館の曜変天目を鑑賞(レポートはこちら)。そして残りの二碗が展示されている滋賀県のMIHO MUSEUM、奈良県の奈良国立博物館を1泊2日で訪れることに。今回はMIHO MUSEUMのレポートです。

1. 滋賀県の山中に、絶景の美術館が

2019年5月19日(日)まで、特別展「大徳寺龍光院 国宝 曜変天目と破草鞋はそうあい」が開催されているMIHO MUSEUM(公式サイト:http://www.miho.or.jp)。早朝の東海道新幹線に飛び乗り、京都駅へ。そこから在来線に乗り換え、JR石山駅に到着。MIHO MUSEUMへは、ここからさらに山道をバスで50分。バスは1時間に1本のみ。曲がりくねった山道はところどころ舗装が悪く、バスが結構揺れます。耳に少々違和感を感じたので、そこそこ標高が高いところまで登ったのでしょう。そして長旅の末に、出迎えてくれたのは満開の桜と絶景の美術館でした。
この日はちょうど快晴。まずはレセプション棟が見えてきます。ここから桜が咲き乱れた坂道を登ります。

MIHO MUSEUM 桜が満開!

MIHO MUSEUM
桜が満開!

トンネルを抜け、山々のパノラマを臨む吊り橋を渡ると、そこには絶景に包まれた美術館がありました。

吊り橋の先には、森林に囲まれた美術館が。

吊り橋の先には、森林に囲まれた美術館が。

ピラミッド状の天窓から差し込む自然光、眼下に広がる森林と快晴の青空。長距離移動が、この一瞬で報われた気がしました。

MIHO MUSEUMからの絶景。

MIHO MUSEUMからの絶景。

MIHO MUSEUMは、ルーブル美術館のガラスピラミッドを手がけたことで知られるI.M.Peiの設計。確かに、ガラスの天窓はルーブルのピラミッドを彷彿させます。

MIHO MUSEUM 天窓からの自然光が表情豊か。

MIHO MUSEUM
天窓からの自然光が表情豊か。

2. 大徳寺龍光院所蔵の曜変天目。臨済宗の古刹で守られてきた逸品。

国宝三碗の曜変天目のうち、最も一般公開が少なくめったに見られないのが大徳寺龍光院所蔵のもの。数々の国宝や重要文化財を所蔵されていますが、一般拝観や特別公開を一切実施しておらず、それらが一般人の目に触れることはほとんどありません。従ってこちらの曜変天目が見られるのは大変貴重な機会です。
曜変天目の待機列に20分ほど並ぶと、ダウンライトに照らされた曜変天目と対面することができました。

大徳寺龍光院 曜変天目茶碗(絵葉書)

大徳寺龍光院
曜変天目茶碗(絵葉書)

写真は購入した絵葉書です。静嘉堂文庫の曜変天目と比べると、円形の星状紋の境界はそれほど明瞭ではなく、また全体的に金銀の細かなきらめきは控えめです。保存状態によるものなのか、焼成当初から元々こういうものなのか定かではありませんが、少し斑紋がかすれているような印象。
しかし一方で、光があたった際の瑠璃色〜群青色、虹色の輝きは見事。そして碗の底部から口縁に向かって放射状に広がる白色〜淡青色の模様が散見されるのが特徴的です。ガラスケースを一周して鑑賞したあと、ぜひ右側にある踏み台にのぼって碗の底までじっくりとのぞいてみてください。底の部分に円形の星状紋が密にみられるのがよくわかると思います。

近くの展示スペースには、曜変天目の製造元である中国・福建省の名窯、建窯けんようで作られたもうひとつの名品が展示されています。黒地の碗に無数の銀色〜金色〜虹色のドットが散りばめられたような油滴天目(重要文化財)です。精緻な螺鈿模様が施された専用の台、「螺鈿唐草文天目台」とともに展示されており、ため息が出るほどの美しさです。そもそも油滴天目は、古来より曜変天目に次いで珍重されてきたもの。こちらもぜひお見逃しなく。

3. もうひとつの曜変(耀変)天目。常設展示も見逃すな!

特別展の曜変天目だけ見て満足していませんか?それではもったいないです。ここには、MIHO MUSEUM自体が所蔵している重要文化財の「曜変天目(展示には「耀変ようへん天目」と表記)も常設展示されているのです。2階の特別展で大徳寺龍光院の曜変天目を見たら、忘れずにB1階常設展示スペースの曜変天目もチェックしてみてくださいね。(特別展の入場券があれば、追加料金なしで見られます)

MIHO MUSEUM所蔵の曜変(耀変)天目の画像はこちら→文化庁 文化遺産オンライン

重要文化財の曜変(耀変)天目もやはり南宋時代(12〜13世紀)に中国で焼成され、日本に伝来したのち加賀藩当主、前田家に伝わったもの。碗内の模様を見てみると、瑠璃色の輝きがほとんどないことに気づきます。円形の模様は光を反射して虹色に輝いており見事ですが、模様の直径が小さく、大徳寺龍光院のもののような大きな星状紋は見られません。個人的にはどちらかというと、油滴天目に近いのでは?と思いました。重要文化財のものと比較すると、国宝の曜変天目の美しさと希少価値がよくわかると思います。

4. 混雑対策、ここに注意。

①駐車場の混雑とバスの待ち時間

桜と曜変天目のおかげで、MIHO MUSEUMは平日でも混雑しています。バスか自家用車で行くことになると思いますが、バスの場合は時刻表の発車時刻20分前には長蛇の列ができており、乗れずに次のバスに回されることもありました。臨時バスも出ていましたが、どうしてもこの時間のバスに乗りたい!という場合は時間に余裕を持ってバス停に並ぶようにしましょう。
自家用車の場合は、駐車場に入るための渋滞ができています。駐車場に停めるまでそれなりの時間がかかりますので、余裕を持ってスケジュールを組みましょう。

②展覧会会場での待ち時間

平日の昼頃行きましたが、特別展会場では入場制限が行われており、15分ほど並んで会場に入りました。曜変天目の待ち時間は20分前後。週末はさらなる混雑が予想されるため、時間に余裕をもって行きましょう。アクセスの不便さもあり、美術館で丸一日過ごすくらいの覚悟が必要です。

③ランチを食べるにも、行列覚悟

MIHO MUSEUM内にはレストランが2つありますが、いずれも混雑で満席、長蛇の列でした。山中の美術館のため周囲に飲食店はなく、昼食をとるのもひと苦労です。私はレセプション棟にあるMIHO BAKERYでパンを購入して空腹をしのぎました。レストランの裏手、ちょっと分かりにくい場所にありますが、空いていますし休憩スペースで座って食べられます。困った時にはオススメ。

MIHO MUSEUM ベーカリーショップも併設。

MIHO MUSEUM
ベーカリーショップも併設。

5. 同じ美術館内で国宝と重要文化財を比較鑑賞できる贅沢

アクセスの不便さが問題ではありますが、めったに公開されない大徳寺龍光院所蔵の国宝が見られるだけでなく、同じ美術館内で重要文化財の曜変天目と比較することもできるなんて、こんな贅沢な展覧会はそうそうありません。次チャンスがあるとしても、最低10年後くらいなのではないでしょうか。
MIHO MUSEUM自体もI.M.Peiによる建築が素晴らしいだけでなく、古代エジプト・ギリシア・ローマ、中央アジア、中国等の貴重な所蔵品を常設展示で公開しており、かつてはフランスの観光ガイド・ミシュランの三つ星を獲得。外国人観光客も数多く訪れていました。曜変天目を見れるこの機会に、ぜひ訪れることをお勧めします。

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