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この週末にネットを見ていたら、北里大学が日用品で新型コロナウイルスの不活化効果を検証したという情報がありました。北里大学のプレスリリースはこちら。
研究の主旨としては、エタノールや界面活性剤が新型コロナウイルスに有効だと考えられるものの、それらの成分を含む市販品がウイルスを不活化するうえで有効かどうかを検証した研究は少ないため、実験により市販品でのウイルス不活化効果を検証しその効果を製品名とともに公表したとのこと。結果は下記の通り。
おおっ、結構いろいろな商品で不活化効果がありそうですね。ただ、こうした製品は数年ごとに処方が変わることがあるため、手持ちのものがかなり前に購入した製品の場合は、今回試験に供されたものと成分や配合が異なる可能性があるので注意が必要です。また、製品の使い方によってどの程度ウイルスを不活化できるかも変わってくるでしょう。とはいえ、少なくともこれらの製品がウイルスの感染性を弱めることは間違いなさそうなので、手洗いや換気など、他の予防手段を組み合わせて使えばかなり感染リスクを下げることはできそうです。
↑新型コロナ騒動前から我が家で使っていて、ふだんから常備してある製品もいくつか有効性が認められていて、助かりました。右下の手指の消毒剤以外は、日常的に使っているものです。かんたんマイペットはかなり前に購入したものなので、今回試験されたものと配合が同じかどうかは怪しいですが…。必死に消毒用エタノールを探さなくても普通の洗剤や掃除用品で消毒可能なら、もし急に我が家で感染者が出てしまった場合でも対応が楽です。
ところで製品名を見る限り、すべて花王さんの製品…ということは、この研究は花王さんが宣伝目的で資金提供して実施されたのか…?と一瞬思いましたが、「研究背景」の部分をよく読むと違うようです。「本研究にて評価した製品の選定にあたっては、本研究結果の公開に異議を唱えないことを前提として国内複数企業へ製品サンプルの提供を要請し、同意が得られた企業の製品を使用した。」との記述があります。ということは、「この試験で新型コロナウイルスの不活化効果がないとわかっても、結果や製品名を公表するからね?」と複数の企業に訊いて、企業側がOKを出したもののみを評価しているということ。花王さんはこの条件をOKしたけれど、協力を断った企業もあるということですよね。
企業側の事情もよく分かります。自社製品の効果を調べてもらって、もし効果がないと分かれば売り上げが落ちますしね…。でも仮に自社製品でウイルス不活化効果が認められたら、宣伝になって良いでしょ?と思うかもしれませんが、こういう研究結果で自社製品の名前を出されるのは、諸刃の剣なんです。今回ウイルス不活化効果が認められた製品は需要が高まり完売が続出、営業・コールセンターには取引先や一般消費者から欠品のクレームが多数寄せられることでしょう。今回のコロナ騒動で、ただでさえ家庭用品メーカーにはハンドソープや除菌グッズの品薄で多くの問い合わせが来ているはずなので、さらにこの件で製造現場やコールセンターの負荷が増すことが予想されます。また、こういう場合は「ウイルスを不活化できる製品を使っていたのにコロナに感染した。どうしてくれるんだ」というような言いがかり的なクレームも一定数発生します…。対大学で考えれば、研究への協力にあたって製品の処方(成分・配合割合の情報)を開示しなければならないケースもあるでしょう。こうした企業秘密を開示するのは、企業側としてはとても敏感になるところです。研究の意図と社会的利益は十分に理解しながらも、結果の公表に伴うネガディブな影響を見越して、この研究に協力できないと企業が考えるのも無理はありません。そんな中、腹を括って製品を提供した花王さんは宣伝目的というより、社会的利益を相当考慮して判断されたのではないかと思います。なかなかこういう判断はできるものではありません。
また、商品名を公表することは大学側にとっても懸念材料になります。大学などの公的研究機関では、中立性が重要になります。研究機関は科学的・客観的事実を追求するところですから、特定の企業の利益に資するような研究に対しては慎重になります。中には、「企業との共同研究はやらない」と断言する先生もおられます。そして研究結果を論文として公表する場合には、必ず利害関係の開示が求められ、研究の資金源に問題がないか、それらが研究結果を歪めていないかチェックされるのが通例です。本来はこの研究も、中立性を保つためにさまざまな企業の製品をまんべんなく評価し製品名は伏せたうえで、「製品Aは有効だが、製品Bは無効、有効姓を決定づけるのはこの成分の配合が何%以上」というような公表のしかたをするのが普通です。そうした観点から見ると今回の研究結果は一社のみの製品評価、製品名まで公表という異例な形です。
これは生活者目線に立った大学側の配慮だと思います。アルコールや界面活性剤が有効、という情報は厚労省のウェブサイトにも掲載されていますが、じゃあドラッグストアで販売されているものの中でアルコールが含まれている製品はどれか、洗剤といってもどれを選べばいいのか…。そういう情報を公的機関は出していませんでした。しかし、アルコール・界面活性剤という成分名だけを与えられても、一般人の感染予防にはダイレクトに役立たないのです。自分で製品の表示を見てアルコールの配合量が高そうな製品を探す、界面活性剤はどういう成分名として製品に表示されているのか調べるなど、一歩踏み込んだアクションが個人に要求されます。場合によっては、製造元のコールセンターに問い合わせなければならないこともあるでしょう。しかし、「この製品がウイルスの不活化に使えますよ」という情報が開示されることによって、改めて消毒用品を買わなくても自宅にあるもので対応できることが分かりますし、特に何も調べずに店頭へ行って、効果が検証されているものを買えばいいので楽です。身近な製品で感染予防ができることが分かると、ちょっと精神的に安心し、医療用アルコールなどの買い占めが抑えられる効果もあるかもしれません。医療崩壊が起こりつつあると言われている中、アルコールを医療機関に回すためにも、一般人なら日用品で感染予防ができるという情報はとても有用です。
この北里大学の研究は、非常事態ならではの企業と大学のコラボレーションによるものだと思います。北里大学と協力企業に敬意を表しつつ、日用品をうまく使ってコロナ騒動を乗り切りたいと思っています。
似たような評価として、経済産業省でも消毒方法の検証を行うようです。(https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200415002/20200415002.html)評価対象となるのは、界面活性剤(台所用洗剤)、次亜塩素酸水(ハイター)、第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウムなど)。こちらの結果も早く出るといいなあと思っています。