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昨日行ってきた東山魁夷展(新国立美術館)感想の続きです。代表作が網羅されており、これだけの作品を比較して見られるのは大変貴重な機会でした。これまでは画集で見た作品がほとんどで、実物を比較しながらじっくり見たのは初めてだったのですが、ちょっと意外だったことがありました。画集で見た際、東山魁夷の絵はしっとりと落ち着いた雰囲気を感じていたのですが、実物を見ると非常に華やかなんです。画集で見るのと全然印象が違う。遠ざかったり近づいたり、色々な作品を比べて見てわかったのは、「意外とラメ感のある描き方になっている」ということでした。そして実物の絵画を見ることの意味を思い知らされました。
東山魁夷作品のラメ感の正体
近づいて、作品の表面を単眼鏡で拡大してみると分かりました。正体は光を反射する顔料。肉眼でもある程度近づけば、絵の具に含まれる小さな粒々が光を反射してキラキラ光っているのが分かります。日本画では天然鉱物を粉砕して作られた岩絵具が使われるので、当初は原料の鉱物に混入した成分がランダムに光っているのかなと思ったのですが、全ての作品で均等に光の反射がみられる訳ではないのです。ラメ感がはっきり観察できる作品とそうでない作品があり、また、同じ作品の中でもラメ感が強い部分と弱い部分があるものもあります。これはつまり、何らかの意図を持って特定の作品/部分に光を反射する効果が加えられているのではないかと想像しています。光を反射する顔料で、日本画で使用されるものといえば、例えば雲母や金箔があります。そういうものを効果的に使って、特殊効果を出しているのかもしれません。
このラメ感、至近距離で見れば光っているのが分かるのですが、遠ざかってみると肉眼では個々の光の反射は検出できません。しかし、恐らく小さな光の反射が集まって全体的な視覚的効果を生み、遠くから鑑賞したときに華やかな印象を受けるのだと思います。日本画の顔料として使われる雲母は光を反射してキラキラ光りますが、化粧品(アイシャドーやファンデーションなど)にも肌を美しく見せるためのラメ成分として使われています(製品には「マイカ」や「雲母」と表示)。雲母が配合されている化粧品を使うと、近づかなければ微細な光の反射は分からないのですが、遠ざかってみたときに肌が綺麗に見えるんですよね。これと同じ効果でないかと妄想しています。
このラメ感は、画集では伝わってきません。実物を至近距離で観察しないと分からないことなので、この貴重な機会に単眼鏡や双眼鏡で覗いてみることをお勧めします。
ラメ感が感じられる作品
1. 冬華
凍てついた樹氷と冬の太陽が描かれており、背景の暗い森林から正面の半円形の枝を持つ木が浮き上がって見えます。この樹氷の部分に、ラメが使われており照明を反射してキラキラ光っていて、とても華やかなのです。微細な氷が太陽光を反射したきらめきを表現しているのではないかと思います。だからタイトルが「冬華」なのだなあ、と妙に納得してしまいました。空を見ると、冬のうす曇りの中太陽の光が同心円上にぼうっと広がっていて、徐々に太陽光が周りの曇り空に溶け込んでいくのですが、単眼鏡で拡大してみても色の境目が分からないくらいの絶妙なグラデーションで太陽光が描かれています。画集で見るよりも実物の方が圧倒的にきらびやかなので、本来の魅力を会場で要チェックです。
2. 行く秋
こちらも画像ではキラキラ感が伝わりにくいと思うのですが、落ち葉の部分の金色の細かい点々は金箔です。実物を見ると、肉眼で見ても落ち葉の全面に金箔がキラキラと光って、祝席の金屏風のような絢爛豪華さです。枝に残っている葉には金箔は全く使われておらず、落ち葉だけに金箔を使用しているところに、終わりゆく秋こそ美しいのだ、という作者の意図を感じます。
3. 晩照
「第1章 国民的風景画家」セクションに展示されています。夕暮れ時の山、湖、空が描かれた作品です。夕闇に包まれつつある山々は暗い色で描かれており、一見すると地味な作品に見えるのですが、実物を近くでみると山肌は照明を反射してキラキラと光っており、夕日を反射した木々の輝きが表現されています。夕暮れの空は金色で、やはりキラキラと光っています。画集で見ると分からないのですが、実はとても華やかな作品なんです。
実物を鑑賞する意味
実物を見て、東山魁夷作品の印象が大分変わりました。こんなにきらびやかな作品だとは思っていませんでした。そして改めて、実物を近くで見られることは、作品がどのようにして描かれたのか、画家の技法や意図を知ることができる貴重な体験なのだと思い知らされました。上記3作品以外にもキラキラ感が感じられる作品がいくつかあるので、会場で要チェックです。
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