東山魁夷展感想①:混雑状況と唐招提寺障壁画を楽しむためのポイント3つ

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1. 東山魁夷展概要

国立新美術館で本日から開幕している東山魁夷展に行ってきました。(公式サイト:http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/kaii2018/

計70点余りの作品がひとつの会場に展示され、代表作が網羅されているため東山魁夷作品の全体を俯瞰することができ、大満足の美術展でした。

展示の構成は下記のようになっています。

1章:国民的風景画家

2章:北欧を描く

3章:古都を描く・京都

4章:古都を描く・ドイツ、オーストリア

5章:唐招提寺御影堂障壁画 間奏 白い馬の見える風景

6章:心を写す風景画

見どころが盛りだくさんのため、何回かに分けて感想を書いていきたいと思いますが、まずは開催初日の混雑状況と、圧巻の唐招提寺御影堂障壁画について。

2. 初日の混雑状況

今朝、開場5分前に国立新美術館到着。会場前に50~60人ほど並んでいました。10時の開場後、チケットの確認やイヤホンガイドの列を調整するため、5~6人ずつ区切って案内していましたが、5分ほどですんなりと入れました。

展示会場に入ると、それほど鑑賞スペースは広くないものの、比較的大きめの絵画が多いためそれほど人口密度は高くなっていませんでした。第3章の京洛四季スケッチは小さな絵画が縦2列で配置されているため、人が滞留しやすく人口密度が高めでした。朝イチではそれほど混んでいないかな?と思ったのですが、正午頃に一旦空いた後、午後はまた混雑してきたのでかなり人気は高い様子でした。

3. 唐招提寺障壁画を楽しむためのポイント3つ

唐招提寺障壁画は、奈良県にある唐招提寺御影堂の襖、床の間、脇床、天袋小襖に描かれた大作です。(上記画像は、展覧会パンフレットより引用させていただきました)

全長は約80メートルにものぼり、東山魁夷が10年かけて完成させたのだとか。今回は、この障壁画が奉納された唐招提寺御影堂の空間そのものが再現されて展示されており、唐招提寺の中で作品が実際にどのように配置されているのか、画集では体験できない圧倒的なスケール感を体感できる環境展示となっています。これは間違いなく本展一番の見どころです。今日実際に行ってみて、この障壁画を存分に楽しむためのポイントを下記にまとめました。

①唐招提寺障壁画展示の手前にある映像コーナーを見てから障壁画の展示スペースへ

唐招提寺御影堂障壁画の手前に、「間奏」ということで風景画とともに白馬が描かれた5作品が展示されています。そこから通路を通って障壁画の展示スペースに繋がるのですが、この通路の途中に化粧室と休憩スペースに繋がる窓際の通路があります。そこに小さく「映像コーナー」と書いてあるのです。休憩スペースの奥に、小広間のようなスペースがあり、そこに液晶テレビが置かれていて、約8分の限定映像が放映されています。東山魁夷の略歴、唐招提寺障壁画に込められた思いや、障壁画の制作風景など、ご本人も出演されている貴重な関連映像が見られます。これを見てから障壁画を見ると、より楽しめるのでオススメです。映像コーナーの場所が分かりにくく、気付かず素通りしている人もいたので、知らないと少し損するかもしれません。但し、映像コーナーは入口が狭い上、椅子(30脚ほど)もすぐに埋まってしまうので、人口密度が高かったです。混雑時は少々厳しいかもしれません。

②双眼鏡や単眼鏡は必須アイテム

今回の障壁画再現展示では、唐招提寺の鴨居、欄間、違棚などが完全再現されているのですが、襖絵の手前に畳まで置いてあり雰囲気満点の展示となっています。一方で、畳が敷いてあるおかげて鑑賞可能なスペースの最前列まで行っても、襖1枚分ほど(約2mくらい)離れて鑑賞することになり、肉眼では細部が見えにくいのです。もちろん遠くから眺めてもとても素晴らしいのですが、近くで見て筆使いや細かな色彩を楽しむのも実物ならでは。そこで活躍するのが双眼鏡や単眼鏡です。持参している方が会場にも結構いらっしゃいました。必須アイテムだと思います。

③唐招提寺障壁画が東京で見られるのは希少な機会、時間に余裕を持って

この障壁画を所蔵している唐招提寺は、2015年から平成の大修理が行われており、約5年間は拝観できません。唐招提寺の修復が終われば、再び現地で所蔵されるので、東京では暫く見られなくなると思われます。修復中だからこそ、こうして東京で見られるのです。貴重な機会であるうえに、超大作のためひとつひとつ見ていると結構な時間がかかります。時間に余裕を持って訪れると、十分堪能できると思います。ちなみに私は、この障壁画を見るだけで1時間を費やしました。さすがにこんなに時間を費やす人はいないか…。

4. 唐招提寺障壁画の感想

映像コーナーでは、東山魁夷がこの障壁画に込めた思いがご本人の言葉で語られていました。

中国(唐)の高僧であった鑑真は、律宗の戒律を日本に伝えるため、日本への渡航を試みるものの、5回にわたって失敗し、失明。最終的には日本へ到着し、唐招提寺を創建しました。この来歴を踏まえて、鑑真の故郷である中国の風景と、失明した状態で日本に到着した鑑真が見たかったであろう日本の風景(海と山)の両方を描こうと決めたのだそうです。つまりはこういうことです↓

日本の風景

  • 山雲:日本の山の風景。山=鑑真の徳の高さを表している。
  • 濤声:日本の海の風景。海=鑑真の精神の深さを表している。

中国の風景

  • 黄山暁雲:鑑真の修業地を描いたもの。
  • 揚州薫風:鑑真の故郷を描いたもので、鑑真坐像が安置されている松の間に飾られている。故郷の風景で鑑真の霊を慰めようと考えた。
  • 桂林月宵:鑑真が訪れた桂林の風景を描いたもの。

日本の風景は着色画で、中国の風景は水墨画で描かれています。まず目を奪われるのは日本の風景。「濤声」で描かれている海の青の美しさに度肝を抜かれます。青緑のような、エメラルドグリーンのような、なんとも言えない青色です。近くで見てみると、何種類の青を使っているのだろう?というくらい、たくさんの青色が重ねられて絶妙な効果を生んでいるのがよく分かります。一口に青といってもこんなにいろいろな色があるんだと思い知らされます。「濤声」では海岸に打ち寄せる波が描かれていますが、全体的に波は穏やか。これは鑑真が日本に渡航する際の厳しい航海を思い、穏やかな日本の海を描いたそうです。「山雲」では一気に、山の緑の世界に引き込まれます。霧で隠れたり、透けて見えたりする木々の表現が見事で鳥肌が立ちます。木々の枝葉を、緑色の濃淡で表現しているのですが、単眼鏡で拡大してみても色の境界が分からないくらい、微妙なタッチで色を載せているような印象を受けました。これが神秘的な表現を生んでいるのかもしれません。「濤声」や「山雲」の色は、日本画の岩絵具の群青と緑青だそうです。これは顔料を含む鉱石を粉砕して水と混合し、粒子の大きさごとに発色が異なるため、粒子の大きさで分けて使うそうです。ただ、天然鉱石であれば色調に個体差もあるでしょうし、これだけ広い面積に統一感のある発色で描くのはものすごい技術が必要なのではないか?と想像しています。東山魁夷が「青の巨匠」と呼ばれ、その青は「東山ブルー」と呼ばれる意味がよく分かりました。

中国の風景は水墨画で描かれていますが、この作品で初めて水墨画に挑戦したそうです。60歳を超えても新たなチャレンジを続ける姿勢に頭が下がりました。ここで使用されている墨は、中国・明の時代のもので大変貴重なのだとか。イヤホンガイドでは紫がかった色をしているということでしたが、確かに真っ黒な墨ではなく、ちょっと赤褐色のような色味に見えました。真っ黒ではない、柔らかい色の墨が、鑑真の故郷を温かく表現しているように見え、なんだかほっこりとする水墨画でした。

個人的には、この障壁画を見るためだけに入場料を払ってもいいと思うくらい大満足でした。

他の見どころとして、東山魁夷の風景画といえばしっとり落ち着いたイメージだったのですが、実物を間近に見てみると意外にもキラキラとしたラメ感が感じられる作品がありました。きらびやかさと華やかさが感じられた作品について、下記に感想をまとめています。宜しければこちらもどうぞ↓

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2018年11月17日から東京・広尾の山種美術館で開催されている「皇室ゆかりの美術展」でも東山魁夷が日本の海を描いた壁画が鑑賞できます。唐招提寺の障壁画で描かれた日本の海とまた違った趣があるので、比較して見ると面白いですよ。レポートはこちら↓

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