相田みつを美術館:「にんげんだもの」が生まれた理由とは?書道と詩が化学反応した珠玉の作品を見て、書道のチカラに震えた話。

「にんげんだもの」で有名な相田みつをさん。東京・有楽町の国際フォーラム内に相田みつをさんの作品だけを集めた美術館があります。「相田みつを美術館」です。

相田みつを美術館にて

独特の筆致で書かれた字と、人生の本質やいのちの尊さを説く珠玉の言葉で多くの人を魅了していますが、もともとは書道家の方だったということを今回訪問して初めて知りました。ここでは生涯の作品を時系列で追うことができるのですが、「にんげんだもの」に代表される作品からだけでは分からない、相田みつをさんが創造した新しい価値が分かりました。それは「書道と詩で双方の価値を相乗的に高め、人の心を震わせる作品を生み出す」ということです。そして相田みつを美術館は、書道の魅力を余すところなく伝えてくれる場所でした。

初期の書道作品。書道家としての類いまれなる才能と、葛藤がよくわかる

相田みつをさんは当初、中国の漢詩などの臨書(古来の名書を手本通りに書くこと)作品を制作していたようです。美しい楷書が書かれており、「にんげんだもの」に代表される作風とはまったく異なる、書道の教科書に載るような端正な文字にまず圧倒されます。しかし、これほどの美しい文字を書く技量がありながらも、臨書に対する疑問を持つようになったのだそうです。

「手本にならい、それを書き写すことに、どれほどの意味があるのか?」

と。

確かに、どれほど技を極めたとしても、古典を書き写しているだけではそれを超えるものは作れません。そして、自分の思いを自分の言葉で表現することもできません。そこで相田みつをさんは、短歌や詩に取り組み、自分の詠んだ歌や詩を書にするようになったのです。自分の言葉が、よりダイレクトに見る人へ伝わる書体やレイアウトを模索した結果、相田みつをさんの代表作となる作風が生まれました。

日本人の心に響く、漢字仮名交じりの書道

相田みつを美術館にて
「ただいるだけで」

相田みつをさんの代表作は、書道の世界で「漢字仮名交じり」に分類される作品です。漢字・ひらがな・カタカナを含む、日常的に私たちが使っている文章を作品にするもの。この分野だからこそ、相田みつをさんの紡いだ言葉がスムーズに心に入ってくるのです。

たとえば漢字のみの書道作品の場合、純粋に字が美しいと感じることはできますが、内容を理解するには高いハードルがあります。漢文の授業で習うようにレ点を打って日本語の語順に直し、送り仮名を振って日本語として意味が通るようにするなどの手順が必要で、一見してすぐに理解することができません。しかし、漢字仮名交じりの作品なら、いつも使用している日本語と同じなのですから、そのまま読むだけで理解できます。相田みつをさんの作品は漢字が少なく、ひらがなやカタカナが多いのでやわらかい印象ですし、子供でも読めるほどわかりやすく書かれているので敷居の高さが全くないのです。テーマも生き方や命など普遍的なものが多く、なんの予備知識もいりません。

ただ見て、感じればよいのです。

書道のよさって何?それは相田みつを美術館に行けばよくわかる

相田みつをさんの作品が見る人の心にじんわり沁みこむのは、詩的な言葉の素晴らしさのほか、書体を抜きにしても語れないと思います。同じ言葉でも、活字のフォントと相田みつをさんの字では伝わり方がまったく異なります。

たとえば、「幸せはいつも自分の心が決める」という言葉。日常を過ごしていると他人の評価を気にして、自分自身の幸せを自分で考えることすら忘れてしまう。そんな時にハッとさせられる言葉です。この言葉だけでも十分インパクトがあるのですが、これが相田みつをさんの書になるとさらに強烈なメッセージ性を帯びます。

相田みつを美術館にて

文字の大きさやレイアウト、線の太さやかすれにまで、すべて意図を持って制作されているのでしょう。「じぶんの こころ」が全体の中心に来ており、最も大きく書かれているので「自分の軸で幸せを考えることを忘れるな」というメッセージが伝わってきます。そして「きめる」という文字、特に「る」には強力な宣言のようなものが感じられます。この「る」は少しゆがんだ線で書かれながらも、最後はしっかりと着地点を見つけて文章を終わらせており、迷いながらも自分の信念を持ってこうときめるのだ、という葛藤と決意がにじみ出ています。

筆で書いた文字の構成要素はいろいろあります。文字の大きさ、線の太さや角度、にじみ、かすれ、ゆがみ、レイアウトなど。活字のフォントとは異なり、言葉の意味を汲みながら変則的かつ効果的にこれらを表現して、人の心を強烈に動かす。それこそが書道の素晴らしさです。相田みつを美術館は、個々の作品そのものも素晴らしいのですが、「書道のチカラってすごい」ということも教えてくれる美術館です。

丸の内や銀座にも近く、買い物のついでにふらっと立ち寄ることもできて気楽に楽しめます。ミュージアムショップを見るだけなら入場料はかかりません。ちょっとのぞいてみるだけでもほっこりして、リフレッシュになりますよ。


相田みつを美術館

場所:東京都千代田区丸の内3-5-1 東京国際フォーラムB1F

公式サイト:http://www.mitsuo.co.jp/museum/index.html

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