大塚国際美術館に度肝を抜かれ、リピーターになった理由

レオナルド・ダ・ヴィンチ作 「モナ・リザ」 (大塚国際美術館)
レオナルド・ダ・ヴィンチ作 「モナ・リザ」 (大塚国際美術館)
アート

今回は私が日本で最も好きな美術館、大塚国際美術館について書いてみたいと思います。私は初めて大塚国際美術館を訪問した際に大きな感銘を受け、以来年1回のペースで通うリピーターです。大塚国際美術館の取り組みはとにかくスゴイとしか言いようがなく、アート好きにとっては外せない美術館です。

1.大塚国際美術館とは

徳島県鳴門市にある、大塚製薬グループ(ポカリスエットやカロリーメイトでおなじみ!)の創業75周年事業として設立された美術館です。(公式サイト:http://o-museum.or.jp

常におすすめ美術館ランキングの上位にランクインし、不動の人気を誇っています。

この美術館の最大の特徴は、「本物を一点も展示していない」ということ。全ての展示作品は著名な絵画のレプリカです。レプリカを集めた美術館なのに、なぜ見に行く価値があるのか?という疑問が当然湧いてくるわけですが、まずは下記の画像をご覧ください。(本エントリーの画像は、全て筆者が現地にて撮影。大塚国際美術館では、複製が可能になるような形でなければ写真撮影はOKです)

米津玄師さんが紅白でパフォーマンスを行った、大塚国際美術館 システィーナ・ホール(筆者撮影)

米津玄師さんが紅白でパフォーマンスを行った、大塚国際美術館 システィーナ・ホール(筆者撮影)

百聞は一見に如かず。単純に、「これはスゴイな」と思いませんか?写真はバチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂の原寸大、完全複製です。つまり、礼拝堂ごと、実物大で完全再現したものです。画像下の、中央通路に立っている人がいますね。それが人ひとりの大きさですので、いかに大きな空間かがお分かりいただけると思います。礼拝堂の正面には「最後の審判」、天井には聖書の「創世記」の場面(ともにミケランジェロ作)があり、すべてが精巧な複製で再現されています。大塚国際美術館に入って、最初に対面するのがこのシスティーナ礼拝堂の複製展示=「システィーナ・ホール」なのですが、これだけで圧倒されて言葉も出ませんでした。私は以前イタリアへ旅行した際、システィーナ礼拝堂のオリジナルも鑑賞していたのですが、本物にまったく引けを取らない存在感に度肝を抜かれました。

さらに、大塚国際美術館のスゴイところは、システィーナ・ホールレベルの、人を圧倒する展示がいくつもあることです。例えば下記の画像をご覧ください。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作 「最後の晩餐」(修復後) (大塚国際美術館)

レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「最後の晩餐」(修復後)
(大塚国際美術館)

ルーベンス作「キリスト昇架」 (大塚国際美術館)

ルーベンス作「キリスト昇架」
(大塚国際美術館)

大塚国際美術館の展示作品は1000点以上、すべてが原寸大で再現された精巧な複製画です(所蔵作品リストはこちら)。全鑑賞ルートは4kmあり、とても1日では回りきれないほどの規模となっています。私は毎年、年1回のペースで通っていますが、まだまだすべてを鑑賞しきれていません。さらに年々展示作品数が増えており、まったく追いつかない状態です。

それでも、複製画=レプリカを見に行くことに意義を見出せないという意見もあるかもしれませんが、私は大塚国際美術館の取り組みは大変素晴らしいものだと思っています。なぜなら、適切な目的で、精巧に作成された複製画には、非常に重要な価値があると考えているからです。そして、大塚国際美術館は複製画の価値を最大限に提供していると思っています。

2.精巧な複製画が適切に活用される社会的・学術的価値を最大化

複製画の真の価値とは何か?

複製画=レプリカというと、あまり良いイメージがないかもしれません。贋作問題(=レプリカを製作して、著名画家のオリジナルと偽って高値で取引する)は、昔から美術品ビジネスの闇として知られています。不適切な目的で製作された複製画は犯罪ですが、その一方で、適切な目的で精巧に作られた複製画には、オリジナルに勝るとも劣らない価値があります。

オリジナルの美術品を多くの人々が鑑賞する上で立ちはだかるのが、美術品保存の問題です。美術品(特に絵画)は描かれた直後から劣化していきます。従って、名作を後世に残していくために、いかにして作品を保護し、長期間の鑑賞に耐える状態で保存していくかということが課題になります。名画を長期間保存するために最も良い方法は何かといえば、ズバリ「展示せずにしまっておくこと」。つまり、作品を光に当てず、完璧な温度・湿度管理の下、厳重に保管しておくのがベストです。これでは、美術品は芸術家が人に見せるために製作したものなのに、人の目に触れさせないということになってしまい、本末転倒ですよね。そこで、オリジナルを美術館で展示するときは、展示スペースの温度・湿度管理はもちろんのこと、展示期間を限定したり、照明を暗くしたりして作品の寿命が出来る限り縮まらないように配慮しながら公開されることになります。また、当然ながらオリジナルは世界に1点しかないため、運搬・保存・警備には細心の注意が払われ、展示する側も鑑賞する側も気楽に楽しむというわけにはいきません。作品保存のためには仕方がないことですが、オリジナルの美術品に触れる機会はどうしても限定されてしまう、これが宿命です。

この問題を解決するのが精巧な複製画です。複製画であれば、保存を考慮することなく展示できます。また、複製画を作成する過程ではオリジナルの製作方法が研究されるので、学術的な発見が行われたり、効果的にオリジナルを修復するための手がかりが得られたりと、作品の理解を深めることにもつながります。大塚国際美術館の複製画は、大塚ホールディングスのグループ会社(大塚オーミ陶業株式会社)の技術で陶板と呼ばれるタイルに色素を転写して作成されており、陶板画と呼ばれます。これが1000年単位で劣化しないのだそうです。また、現地で複製画を鑑賞してみると分かるのですが、作品の色彩だけでなく表面の絵の具のひび割れや凹凸までもが完全に再現されています。このように長期間劣化しない、実物大の精巧な複製画が、世界中の名画1000点以上について作成され、1箇所に集められていることには大きな意義があります。

大塚国際美術館で提供されている「複製画ならではの価値」

日本では物理的に鑑賞できない名画を鑑賞可能にする

大塚国際美術館では、日本では絶対に鑑賞できない美術品が鑑賞できます。たとえば下記のようなものです。

  • 運搬が不可能なもの:
ジョット作「スクロヴェーニ礼拝堂」 完全再現 (大塚国際美術館)

ジョット作「スクロヴェーニ礼拝堂」
完全再現
(大塚国際美術館)

冒頭で紹介したバチカン市国のシスティーナ礼拝堂のほか、イタリアのスクロヴェーニ礼拝堂(上記画像)はジョット(後期ゴシックの画家)の壁画で全面が覆われており、建物全体が貴重な美術品です。建物ごと日本に運搬するのは不可能なので、オリジナルを鑑賞するには現地に赴くしかありません。

  • 門外不出のもの:

名作と呼ばれる美術品の中には、所蔵されている美術館から貸し出しされることがほとんどないものがあり、門外不出と呼ばれます。たとえばピカソの「ゲルニカ」は世界一借りにくい絵と言われますが、こちらも大塚国際美術館で鑑賞可能です。

失われた名画を復元する

  • 戦禍で消失・散逸した作品を復元する:

戦争によって失われるものは甚大ですが、往々にして美術品もその被害を免れることはできません。大塚国際美術館では、戦争で破壊されたり、焼失した名画をよみがえらせる取り組みも行われています。

  1. エル・グレコの祭壇画復元:スペインのマリア・デ・アラゴン学院にあったエル・グレコの祭壇画はナポレオン戦争によって破壊され、散逸し現存していません。こちらでは専門家と協力して復元され、展示されています。(世界初の取り組みだそうです)
    エル・グレコの祭壇衝立復元 (大塚国際美術館)

    エル・グレコの祭壇衝立復元
    (大塚国際美術館)

  2. ゴッホ「芦屋のヒマワリ」完全復元:ゴッホはヒマワリの連作を7点製作していますが、そのうちの1点は1920年、日本の実業家によって購入され、兵庫県芦屋市の自宅に飾られていました。しかし、太平洋戦争の空襲によって焼失し、現存していません。こちらも復元され、展示されています。
    ゴッホ作「ヒマワリ」復元 (太平洋戦争にて焼失)、 大塚国際美術館

    ゴッホ作「ヒマワリ」復元
    (太平洋戦争にて焼失)、
    大塚国際美術館

修復前、修復後の作品を両方とも残し、比較鑑賞を可能にする

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」

オリジナルの作品は、後世に残していく上で定期的に修復が必要になります。修復が行われるということは、修復前の状況が完全に失われることを意味します。ここでは、修復前後両方の複製画が展示されているため、比較鑑賞が可能になっており、修復前の状況を原寸大で記録する貴重な資料になっています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作 「最後の晩餐」 修復前後を両方展示。 左:修復後、右:修復前 (大塚国際美術館)

レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「最後の晩餐」
修復前後を両方展示。
左:修復後、右:修復前
(大塚国際美術館)

世界中の名画へのアクセシビリティを高める

名画のオリジナルは世界中に散逸して所蔵されています。大塚国際美術館に所蔵されている名画のオリジナルをすべて現地で見ることは、一生かけても物理的に不可能です。特定の画家の作品のみであれば、世界中を巡って鑑賞し完全制覇することも可能ですが、多くの時間とコストがかかります。また、オリジナルを見るために世界中から愛好家が訪れるため、所蔵元の美術館に行ってもゆっくり見られないことも多いのです。

例えばモナ・リザ。フランス・パリのルーブル美術館に所蔵されており、私も現地で見ましたが、モナ・リザの前は常に黒山の人だかり。最前列で見ることはできませんでした。「モナ・リザに描かれている女性は、どこから鑑賞しても視線が合う」と聞いていたのでいろいろな場所から鑑賞してみたかったのですが、混雑でそんな余裕はないうえに、モナ・リザは防弾ガラスで覆われているため光が反射して、細部まで見えませんでした。しかも、ルーブル美術館のモナ・リザ前は人が殺到するためスリ被害が多い場所で、私が訪問した日には午前中だけで3人もが被害に遭ったと聞きました。これではゆっくり見られませんよね。(※ルーブル美術館のモナ・リザも複製を展示しているという噂ですが…)

大塚国際美術館のモナ・リザ前はこんな感じ↓。ほとんど人がいないので、じっくりと鑑賞できました。こうして、日本国内の美術館でやっと、モナ・リザと「どこから鑑賞しても視線が合う」体験が叶ったのでした。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作 「モナ・リザ」 (大塚国際美術館)

レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「モナ・リザ」
(大塚国際美術館)

保存への影響を考慮することなく、理想的な展示や細部の鑑賞が可能になる

大塚国際美術館の複製画は、長期間に渡って劣化せず、屋外への展示も可能であるため、たとえば下記のようなことが可能になります。

  • 強いライトの照射が可能になるため、細部の鑑賞が可能になる

作品保護のため、オリジナルを展示している美術館では照明が暗く設定されていることが多いです。私はバチカンのシスティーナ礼拝堂に行った際、薄暗くて天井画の細部が見えず、作品保護のためとはいえ少し残念な思いをしました。大塚国際美術館では、天井画がまんべんなく、明るく照らされているため細部までようやく見ることができたのです。

  • 屋外に展示し、自然光の下での鑑賞も可能になる

印象派の画家、モネの代表作「睡蓮」は大塚国際美術館の庭園に展示されています。これはモネの「自然光の下で見て欲しい」という言葉に沿った形の展示なのだとか。作品の周りは睡蓮が栽培されている池で囲まれ、モネが作品のモチーフとした自身の邸宅内の庭園の様子が再現されています。モネがどのような風景にインスピレーションを得て「睡蓮」を製作したのか、非常によく分かる展示になっています。私は以前フランスを旅行した際、ジヴェルニーにあるモネの家の庭園を訪れ、モネが描いた風景を体験してきましたが、この展示を見てその経験がよみがえってきました。まさか日本でこんな体験ができるとは。

大塚国際美術館、「モネの大睡蓮」へつながる橋。展示スペースへは、睡蓮が咲く池に架かる橋を渡って進みます。

大塚国際美術館、「モネの大睡蓮」へつながる橋。展示スペースへは、睡蓮が咲く池に架かる橋を渡って進みます。

「モネの大睡蓮」展示スペース (大塚国際美術館) 風光明媚な場所で鑑賞できます。

「モネの大睡蓮」展示スペース
(大塚国際美術館)
風光明媚な場所で鑑賞できます。

複製画作成時点での名画を記録する

前述したように、オリジナルの美術作品は経年劣化を免れない、これが宿命です。作成時点での名画の状態を複製画として記録することは、学術的にとても意味のあることだと思います。オリジナルの色彩が経年劣化していったとしても、複製画としての記録があれば、修復にも大いに参考になると思うからです。

3.まとめ

レプリカばかりが展示されている大塚国際美術館を訪問する価値があるのか、という疑問に対して、私は自信を持って「絶対に行くべきだ」と答えます。一生かけてもオリジナルを見きれないと思われる名画1000点以上の精巧な複製画を原寸大で揃え、混雑のない広い空間で、明るい照明で照らされた作品をじっくりと細部まで鑑賞できるからです。アート好きの方は、一度は訪れる価値があると思います。オススメです。

もうひとつ、私が毎年訪れるたびに実感しているのは、大塚国際美術館の取り組みは一企業の枠組みを超越しているということです。これだけの作品数の複製画を製作するだけでも凄まじい規模ですし、戦禍によって失われた作品を復元したり、修復前の状態を記録に残したりと学術的に貴重な取り組みを実践していることは、企業の社会的貢献を超えた国家事業、もしくはユネスコレベルではないかと思ってしまいます。

著名な企業の創業者とその一族が、ホンモノの美術品を収集し私立美術館で展示するという取り組みはよくあります。東京都内であれば、山種美術館、損保ジャパン日本興亜美術館などがありますね。しかし、あえてホンモノの収集はせず、早くから精巧な複製画の価値に注目し、グループ会社の技術を最大限活用して唯一無二の存在価値をつくりあげた美術館は、ここ大塚国際美術館しかありません。社会貢献活動としてこういう活動を実践してくれる企業が日本にあって、本当によかった。これからも毎年、年1回の訪問を楽しみに通う予定です。