美術漫画「ブルーピリオド」:芸術家の卵たちがアートの壁に挑む!芸術家の偉大さに圧倒される漫画。

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わたしは美術展を見るのが好きで、よく美術館に通い多くの感動をもらって帰ってきます。そうすると必然的に、この感動を生み出す芸術家の方々に対する興味が生まれてきます。なぜ芸術を生業にすることを志したのか?学校で美術教育を受ける中でどのような試練や葛藤があり、そして社会に出てどんな壁にぶつかりながら作品を生み出していくのか?芸術家の方々の経歴や思いは書籍や各種メディアで目にすることはあるものの、個人的な知り合いがいるわけではないのでリアリティをもって知っているわけではありません。

そんなとき、芸術家の世界をリアルに教えてくれる美術漫画に出会いました。「ブルーピリオド」です。

【あらすじ】
勉強も遊びも人間関係も、何でもソツなくこなす高校2年生の矢口八虎(やぐち やとら)。高校生活は順風満帆なのに、何だか物足りない感覚を持っていました。そんなとき、ふとしたきっかけで美術部に入部し、美術大学の最高峰、東京藝術大学の受験を目指します。同じ目標を持つ仲間たちと切磋琢磨しながら、受験に立ち向かう八虎。果たして受験の結果は…?(現在連載継続中)

この漫画の魅力は、作者の経歴に基づく圧倒的なリアリティと、絵画表現を追求する中で生まれる、心に刺さる名言の数々です。

1. 美大受験より東大受験の方がラク!圧倒的な芸大受験のリアリティ

日本の美術大学の中で、国立大学は東京・上野にある東京藝術大学(芸大)のみ。私立の美術大学は学費が高いため、唯一の国立大学である芸大に受験者が殺到し、絵画科は日本一受験倍率が高いのです。ゆえに芸大入試は浪人するのが当たり前の激戦となっています。そして、受験準備のためにどんな課題をどの程度こなし、美大受験で求められることは普通の大学受験と何が違うのかが現実に即してリアルに描写されています。それもそのはず、作者の山口つばささんは芸大卒なので、ガッツリ芸大受験に取り組んだ方。ご自身の経験がベースになっているからリアリティがあるんです。

特に美術の創作課題や入試問題の出題形式がエグいです。例えばこんな感じ。

「『わたしの大事なもの』をテーマに描きなさい」

…えっ????!!こんなのムリ…

というのがわたしの直感的な感想でした。

普通の大学入試では、暗記問題であろうが計算問題があろうが、ひとつだけの正解がある問題が出題されます。それに出題範囲も決まっています。だから対策のしようがある。唯一の正解に向かって、頻出問題に出される知識を暗記し、定石とされる解法を頭に叩き込んでいく。これを繰り返すことで合格確率は上がっていきます。正解が存在し、それに到達するための方法論が確立されているという意味では、比較的ラクだと言えるでしょう。

それに引き換え美大の受験問題はエグい。とにかく「何かを表現せよ」という課題だが、何が題材となるかは試験本番までまったく分からない。そして、何が正解なのかの基準も定かではない。だから様々なバリエーションの課題を、とにかく数をこなして場数を踏むしかない。徹底的に課題と自分自身に向き合い、課題に対する自分の考えをキャンバスに表現していく。誰かのマネではない、自分らしさを渾身の力でぶつける。こうして魂をかけて製作したとしても、講評では酷評され、他の受験生との実力の差を見せつけられる。この繰り返し。

こんなの病むわ…美大受験よりも東大受験の方がラクです。絶対。

2. 芸術にも人生にも効く!この漫画は名言の宝庫。

例えば「自画像」という課題に対しては、「自分とは何か」を徹底的に考え抜いて表現する必要があります。美術を志す高校生は、若干10代でここまで哲学的な課題に向き合い、さらにそれを絵画として表現するんです。課題を絵で表現すると、自分の価値観=これまでの人生が画中に反映されます。だからこそ、美術に取り組む登場人物は人生について深く考えていますし、この漫画にはハッとさせられる名言が散りばめられています。

特に印象的なのは、主人公の八虎が美大を目指すかどうか逡巡する場面で、高校の美術教師が語った言葉です。

「作った本人が好きで 楽しんで 情熱を込めて作ったものってね
それを見た人も楽しくなっちゃうものなんですよ
(中略)逆にどんなに技術があっても 情熱のないものは人の心に響かないんですよ」

(美大に行くメリットなど迷っている八虎に対して)

「好きなことに人生の一番大きなウエイトを置くのって 普通のことじゃないでしょうか?」
「好きなことをする努力家はね 最強なんですよ!」

「ブルーピリオド」第1巻より引用(山口つばさ作・講談社)

普通の大学へ行って、サラリーマンになったところで稼げなくなるリスクはある。ならば自分の好きなことに人生のリソースを投入し、徹底的に努力して周囲と差別化するのが得策である、という考え方。たとえ美術に興味がなくとも、人生を考えさせられる一言ではないでしょうか?このほかにも芸術家の卵たちを教え導く教師が出てきますが、要所要所でほんとに深い名言が飛び出します。これが心に刺さるんです。

3. 絵画の技法を漫画でわかりやすく解説!美術館へ行く前にもオススメ

主人公が美術初心者なので、教師が主人公に教えるかたちで色彩や構図、各種技法などがわかりやすく解説されており、こういうふうに美術作品が生まれるんだ~!とよく分かるようになっています。美術館で作品を見る時にも参考になりそう。わたしは今まで、単に完成作品から受ける印象だけを追っていましたが、製作方法も鑑賞ポイントなんだなあと気づかされました。どんな画材を使っているか?遠近法は?構図は?などなど、あれこれ想像することで鑑賞の幅が広がりそうです。

まとめ:芸術家へのリスペクトがさらに高まる

美大受験は芸術家への第一歩。まだ芸術家の卵でありながら、これだけ課題と自分らしい表現に向き合い、正解のない問題に全力で挑む姿に心打たれます。そして私たちが美術館で目にする作品は、膨大なエネルギーの投入と試行錯誤の末に生まれたものだと思うと、芸術家の偉大さに改めて圧倒されます。

本作は現在連載中で、今後の登場人物の活躍が楽しみです。2019年11月、最新刊である6巻が発売され、物語はひとつのクライマックスを迎えています。今後も連載は継続していくとのこと。芸大受験はどうなるか?その後の学生生活と進路は?今後の展開に目が離せません。ちなみに、タイトルの「ブルーピリオド」はピカソの製作年代を示す「青の時代」からとったものだそう。八虎たちは現代のピカソになっていくのでしょうか?美術好きはもちろん、高校生がひたむきに自分のやりたいことを貫く、熱い戦いが読みたい方にもオススメです。