「両陛下と文化交流ー日本美を伝えるー」感想:美術の世界で皇室が果たしてきた、大きな役割と貢献を悟った理由。

「両陛下と文化交流」 (東京国立博物館)
「両陛下と文化交流」 (東京国立博物館)
アート

皇室と芸術の意外な関係

今年は元号が変わるタイミング。皇室への注目が集まる中、東京国立博物館で皇室ゆかりの美術展が始まっています。2019年3月5日~開催中の、「両陛下と文化交流ー日本美を伝えるー」です。今年は今上陛下の即位30周年を記念して皇室所蔵の貴重な美術品を公開する特別展が開催される予定で、本展もそのひとつです。

今回この特別展を見て、皇室が美術の世界で果たしてきた大きな役割に気づき、私自身も相当な恩恵を受けていることがよくわかりました。その役割とは、下記2つです。

  1. 美術品の製作、収集、保存を通じて文化芸術の発展に貢献する
  2. 海外への公式訪問で、日本の美術品を海外に紹介する

それぞれがどれほどすごい貢献であるか、順を追って書いていきたいと思います。

①美術工芸品の製作、収集、保存を通じて文化芸術の発展に貢献する

国内だけでなく海外でもそうですが、一般庶民が美術品を楽しめるようになったのはごく最近のことです。身分制度が残っていた時代、美術品は主に皇族をはじめとした上流階級がパトロンとなり、美術家に製作を依頼することで作られていました。美術品の需要がなければ、美術産業の発展はなかなか難しいですから、皇室に大きな需要があったこと自体が大きな貢献のひとつです。

現代でも、宮中儀式のために一流美術家へ製作依頼が行われます。ひとつの例が本展で見られる東山魁夷の屏風「悠紀地方風俗歌屏風」です(展示は2019年3月31日まで)。これは即位の際に行われる「大饗の儀」という儀式で、饗宴の場を飾る屏風。その都度選ばれる東日本と西日本の土地について、春夏秋冬の風景を描いたものです。東京国立博物館本館にかかっていた大段幕にデザインされていますね。展示室で実物を見てみると、秋田県の風景を描いた春の桜と秋の紅葉が色鮮やかで見事です。圧倒されます。

東京国立博物館(本館) 「両陛下と文化交流」 東山魁夷の「悠紀地方風俗歌屏風』がデザインされている。

東京国立博物館(本館)
「両陛下と文化交流」
東山魁夷の「悠紀地方風俗歌屏風』がデザインされている。

また、皇室の権力と財力は美術品を収集・保存することにも使われました。岩佐又兵衛の「小栗判官絵巻」や、土佐光則の「源氏物語図画帖」はとても保存状態がよく、17世紀に描かれたものとは思えないほどのクオリティです。私たちがこれらの作品を良好な状態で鑑賞できるのも、皇室で手厚く保存され、伝えられてきたからこそ。本当に感謝です。

②海外への公式訪問で、日本の美術品を海外に紹介する

外交面での計り知れない貢献と思われるのがコレです。本展の展示中盤で、前出の「小栗判官絵巻」や「源氏物語図画帖」は、両陛下が諸外国を公式訪問される際に現品を現地へ運び、紹介してこられたことが示されています。こういった活動をされていたとは、初めて知りました。

  • 小栗判官絵巻:1998年イギリス公式訪問、2005年ノルウェー公式訪問
  • 源氏物語図画帖:2005年ノルウェー公式訪問、2009年カナダ公式訪問

こうした活動は、もちろん海外に日本文化を広めることにも大きく寄与していると思われますが、両陛下の文化交流に対する貢献はそれだけではないのです。貴重な美術品を両陛下が自ら外国の首脳に見せるということは、単に日本の文化を世界に紹介するだけでなく、両国間の文化交流を促進する上で大きな意義があります。

日本で海外の芸術家の作品展を開くことになれば、大使館が関与した上で、各国から貴重な作品を借り受けて展覧会を開くことになります。これは、両国間の信頼関係がなければできないことですし、また一方的に日本ばかりが作品を借り受けることもできません。ギブアンドテイクということで、日本側もお返しに自国の貴重な美術品を海外に貸し出す必要があります。

例えば、皇室外交の価値については「知られざる皇室外交」(西川恵 著、角川新書)*が詳しいのですが、ここにフランスとの文化交流の話が書かれています。親日家で仏像好きだったシラク元大統領の熱心な要望で、法隆寺の「百済観音像」(国宝)がフランスのルーブル美術館へ貸し出され、そのお返しに門外不出のルーブル美術館の宝、ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」が来日し、1999年に東京国立博物館で展示されたとのこと。これが両国間の関係性を強化することにつながったという話です。まさにアート外交ですね。

ということは、天皇・皇后両陛下が海外で宮内庁所蔵の美術品を紹介してくださっているおかげで、そのお返しとして海外作品を各国から借り受けることが容易になり、様々な美術展が日本で開催しやすくなっている側面もあるのではないでしょうか。私たちが日本で海外の美術展を楽しめるのも、両陛下のご尽力のおかげと思うと、アート好きとしては頭が下がる思いです。30年間本当にお疲れ様でした。

東京国立博物館の「博物館でお花見」もぜひ。スタンプラリーも開催中。

本展は普段なかなか見ることができない、宮内庁所蔵の美術品が公開される貴重な機会ですが、展示作品数は少なめです。もし時間が余ったら、東京国立博物館で開催中の「博物館でお花見」(2019年4月7日まで)も併せてどうぞ。本館の常設展示室では、桜がモチーフとなっている美術品が多く展示されています。特別展のチケットで常設展も見ることができますよ。スタンプラリーも実施中で、スタンプを5個全部集めるとトーハクくんのバッジが無料でもらえます。

東京国立博物館(本館)にて スタンプラリー実施中。

東京国立博物館(本館)にて
スタンプラリー実施中。

特別展 「両陛下と文化交流ー日本美を伝えるー」

会期:2019年3月5日〜4月29日

場所:東京国立博物館 本館

公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1943

*美術分野に限らず、皇室外交の幅広い価値について、わかりやすく解説されている新書です。オススメ。↓

知られざる皇室外交