国立新美術館「MANGA都市東京」展で日本のマンガ・アニメ・ゲームの底力を思い知った話

(本記事は広告リンクを含みます)
新型コロナの影響でお目当ての展覧会が中止・延期になったりしていて、今年はほとんど展覧会に行っていなかったのですが、日に日に秋らしくなり、芸術の秋到来!ということで国立新美術館へ行ってきました。ちょうど企画展「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」が開催中だったのです。こちらは、2018年にフランスで開催され、大好評を博した展示が里帰りしたものとのこと。当初は東京オリンピックに合わせた開催だったのですが、新型コロナウイルスの影響で会期が変更されました。

展覧会タイトルに「MANGA都市」とありますが、日本の「漫画」は海外でも”MANGA”(発音は日本語のまま)として通じます。他国にはない、独自の価値を持つ日本のカルチャーとして受け入れられている証拠です。わたしはそれほどアニメ・漫画・ゲームに詳しいわけではないのですが、子供の頃からこれらが身近にあり、有名なものには大体触れていて、共に育ってきた感覚があります。そして外国の人と話すと、高い確率で日本のアニメ・漫画・ゲーム好きに遭遇するので、海外で日本のアニメ・漫画・ゲームがどういう点で高い評価を得ているのか興味があったのです。

入場券の入手方法と新型コロナウイルス対策

入場にあたっては、事前に日時指定券を予約・購入しておく必要があります。空き状況に応じて、わずかながら当日券の用意もあるようですが、公式サイト(https://manga-toshi-tokyo.jp/ticket/)で日時指定券をあらかじめ購入しておくほうが安心です。公式サイトにアクセスし、メールアドレスを登録し希望日時を選んでクレジットカードで決済すると、指定したメールアドレスにオンラインチケットのリンクが送信されます。入館時、リンク先に記載されているQRコードを提示して入館です。スマホひとつで入館できてとてもスマート。

新型コロナウイルスの影響で、実に9ヶ月ぶりの国立新美術館でした。入口にはアルコール消毒液が設置され、入館時には検温が行われています。「MANGA都市TOKYO」以外の展覧会は行われておらず、カフェやレストランも営業が縮小されており、人が少なく静まり返っていました。こんな国立新美術館は初めてです。

グローバルで評価される日本のマンガ・アニメ・ゲームの価値とは?

本展は東京オリンピックに合わせて企画されたもののようなので、日本のマンガ・アニメ・ゲームのなかでも特にTOKYOをモチーフとしたものにスポットを当てています。これほど多種多様なマンガ・アニメ・ゲームが生まれ、海外でも支持されているのは色々な要因があると思うのですが、ストーリーやキャラクターの魅力を大前提としつつ、本展ではそれをTOKYOという土地の歴史・地勢などから考察している点が面白かったです。まず入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、1/1000巨大東京都市模型。そして大画面映像では、東京を舞台としたアニメ作品のダイジェストが放映されています。エヴァンゲリオン、秒速5センチメートル、言の葉の庭…一気にその世界観へ引き込まれます。

①時代考証がきめ細やかに行われ、リアルとフィクションが絶妙に融合している

そういえば、多分「漫画」という言葉が最初に使われたのは葛飾北斎の「北斎漫画」じゃないかと思うんですよね。漫画の歴史が江戸時代から始まっていると思うと感慨深いです。本展では、江戸時代~現代に至るまで東京が辿ってきた歴史と、それに因んだ漫画の原画・アニメーションなどが並列で展示されています。たとえば江戸時代であれば、浮世絵など歴史的資料と、その時代をモチーフにした漫画の原画やアニメ映像を展示するスタイルです。(ちなみに出品作品はこちら→https://manga-toshi-tokyo.jp/works/

なるほど、浮世絵に描かれた風景、古地図や写真からインスピレーションを得て創作されていたんだな~と納得しました。そしてこういう展示スタイルが成り立つということは、漫画やアニメが作られるにあたって入念な時代考証が行われ、実際の史実を踏まえた創作となっているということ。日本のマンガ・アニメのクオリティが高いのは、こういう背景があったんですね。どこまでが史実で、どこからがフィクションか分からないくらいリアリティのある作品が多いのはその証拠。漫画・アニメ・ゲームで日本の歴史や文化を知り、それが観光や留学のきっかけになる外国人が多いのもうなづけます。

②トレンドや世相を敏感に捉えている

国際政治の勢力図はどんどん変わってきていますし、経済面も高度成長〜バブルの右肩上がりの時代から、一気に低成長の時代へ。サラリーマン家庭で専業主婦と子供二人というステレオタイプから、価値観が多様化し、様々な形の仕事や家族像が生まれています。そして東京は、政治・経済の中枢として常に時代の変化の中心にあります。漫画・アニメ・ゲームはその時代の求めに応じてトレンドや世相を捉え、ユーザーに刺さるストーリーやキャラクターを生み出してきました。言われてみれば、確かに。子供の頃に見ていた「シティハンター」なんて、まさに東西冷戦の世相を反映していたしなぁ…。あまり意識していませんでしたが、時代を写す鏡だったんですね。

仕事に役立つ日本の文化?!

本展のイメージキャラクター、ヨリコ(右)とヴィッピー(左)

本展のイメージキャラクター、ヨリコ(右)とヴィッピー(左)

わたしは日本で生まれ育ち、何も考えずに流行りのアニメ・漫画・ゲームを見て育ってきましたが、これがまさか仕事に役立つとは全く思っていませんでした。外国の企業で働くとわかるのですが、日本の漫画やゲームを好きな外国人がとても多く、共通の話題で盛り上がれて人間関係を作るのにとても良かったのです。

フランスの若い人(30代以下)と話すと、かなりの確率で日本のマンガ・アニメ・ゲームの愛好家に出会います。子供の頃からTVで日本のアニメを観て育った世代なのだそうです。以前フランス企業で働いていたとき、パリにある本社に出張したところ、とあるフランス人社員から呼び止められました。何か仕事の話かな?と思いきや、

「日本から来たんでしょ?僕は宮崎アニメが好きなんだよね。特にCHIHIRO(=原題:千と千尋の神隠し)が好きでね…くどくどくど」

と、マシンガントークが止まらない。彼は日本の漫画を愛読しているらしく、いろいろ語ってくれたのですが、「いや~仏語版しか読めていないないからまだまだだね。日本語を勉強して原書の日本語版を読みたいんだよね。」と熱弁するほど。別のフランス人は宮崎アニメ「となりのトトロ」の主題歌を日本語で歌っていたし、フランスで日本のアニメや漫画ってこんなに人気なのかー!と驚き、嬉しく思ったものです。ちょっとだけ仕事の話もでき、アニメトークのついでに本社でのネットワークをひとつゲットしたのでした。

フランスだけではありません。以前中国の上海へ出張した時のこと。仕事終わりに中国人同僚と夕食を食べに行くと、

「バイザウェイ、ファイブセンチメーターパーセコンドがさぁ…」
と言うので、一応ビジネスディナーだし、仕事の話かなぁと思って
「え?5cm/ 秒?何のプロジェクトの話?」
と返すと、
「いや、ファイブセンチメーターパーセコンドの桜のシーンはもはやアニメーションではない。あれはアートだ!!(力説)」

…あ~!新海監督の『秒速5センチメートル』の話ね!!

確かに「秒速5センチメートル」で、青空をバックに桜が舞い散るシーンは本当に美しいです。山崎まさよしさんの歌も切なく感動的。その感動を日本人にとにかく伝えたいと思う彼の心意気に、日本のアニメの底力を見た気がしました。その後も新海監督の映画のトークが止まらない…。もうこうなってくると、日本の主力のアニメ・漫画・ゲームは知っておかないと、外国人との会話で困るレベルです。それだけ日本のものは凄い!と世界的に高く評価されているということですよね。

本展では、窓際の休憩スペースにフランスの展示会場で入場者から集めたメッセージカードが展示されていました。フランス語での感謝のメッセージだけでなく、日本語(ひらがな)で書かれた感想も。これだけ海外で高い評価を得ているのなら、これから世界で勝てる日本の産業は、自動車でも家電でもなく、マンガ・アニメ・ゲーム業界なのではないかと思ったのでした。

MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020

会期:2020年8月12日〜11月3日

会場:国立新美術館 企画展示室1E

公式サイト:https://www.nact.jp/exhibition_special/2020/manga-toshi-tokyo/