ルーベンス展2018:特別講演会でわかった鑑賞ポイント3つ

ルーベンス展の初日である昨日、監修者の1人であるアンナ・ロ・ビアンコ先生の講演会が国立西洋美術館で開催されました。先生はイタリアのバルベリーニ宮国立古典美術館で長年にわたり館長を務め、17~18世紀イタリア美術の専門家で1997年にミラノで開催されたルーベンス展の企画もされていたとのこと。ミラノでのルーベンス展を元に、今回東京での展覧会が実現したそうです。

こちらの講演会、ルーベンス展のチケットか半券があれば誰でも無料で聴講できました。全くの素人でも海外の専門家の講演が聞けて、かつイタリア語での講演だったので日本語の同時通訳がついているにも関わらず無料とは…非常にお得でした。

今回先生の講演を聞いて、素人ながらもこの展覧会に込められた意図が理解できたので、下記に要点をまとめておきます。

ルーベンス展の目的

イタリアとルーベンスの関係に焦点を当て、ルーベンス作品におけるイタリア美術の影響だけでなく、ルーベンスが他の画家に与えた影響をも浮き彫りにする。

ルーベンスは、オランダのアントワープで教育を受けた後、1600~1608年にイタリアへ留学。この時期はカラヴァッジョやカラッチなどの芸術家が精力的に美術制作を行っていた時期にあたり、非常に良いタイミングでイタリア美術に触れ、大きな影響を受けることとなった。彼が制作にあたって参考としたイタリア美術とともに展示することで、イタリアとの関係性がより理解しやすいように展示した。また、ルーベンスから影響を受けた画家の作品も併せて展示することで、イタリアとルーベンスの双方向的な関係性について示した。

ルーベンスの芸術性だけでなく、人間性も含めてより深く理解できるような展示構成とする。

今回の展示では、制作時期に従った時系列的展示ではなく、テーマ別展示とし、彼の人間性や価値観が伝わるような展示とした。

以上を踏まえて、以下の鑑賞ポイントが紹介されていました。

鑑賞ポイント1:ルーベンスの人間性を垣間見る

ビアンコ先生によれば、特に下記の作品からルーベンスの人間性が伝わってくるとのこと。

家族に対する愛情

クララ・セレーナの肖像

娘に対する愛情を感じさせる。この年頃の子供はじっとしていないはず、あやしながら?子供の低い目線に合わせて、かがみながら書いたのか?など、描かれた情景が目に浮かぶ。目の白いきらめきが生き生きとして表情を感じさせる。これは依頼主の注文で描かれたものではなく、画家の個人的な楽しみで描かれた可能性が高いため、ルーベンスの人間性が感じられる作品だと思われる。

幼児イエスと洗礼者聖ヨハネ

イエスのモデルとなったのは、ルーベンスの息子ニコラスだと考えられている。家族をモデルとすることはこの頃主流ではなかったため、これは家族に対する愛情を示しているのではないか。

反戦思想

展示外作品「戦争の惨禍」

ルーベンスが戦争を嫌っていたことをよく表している作品。ヴィーナスが軍神マルスを平和に引き戻そうとしており、画面左の黒衣の女性はヨーロッパそのものを表し、戦禍や略奪に怯え、嘆き悲しむヨーロッパ市民そのものである。ルーベンスは外交官の一面も持っていたため、自分自身が(一国の市民ではなく)世界の市民であるという自覚があり、戦争の悲惨さや無意味さを訴えたかったのではないか。

mamaima
なるほど、絵画から画家の人間性を考察する見方ができるんですね。これは専門家の解説を聞かないとわからないです。新しい発見でした。

鑑賞ポイント2:古典・古代美術、イタリア美術の影響

ルーベンスはイタリア留学中など様々な機会でイタリア美術に触れて大きな影響を受け、古代美術愛好家のサークルに加わっていた。こうして得られたインスピレーションが例えば下記の作品で見られる。

ローマの古代芸術からの着想:「アグリッピナとゲルマニクス」

横顔が重なる構図は、ローマ時代のカメオ(展示あり)から着想した構図ではないか。皮膚の表現が白く美しく、白蝶貝の輝きを表現しているようにも見える。

イタリア美術の影響:「毛皮を着た若い女性像」

ティツィアーノ作品の模写。ルーベンスは外交官としてロンドンに赴いた際、ティツィアーノの作品と出会い、大いに感銘を受けたことがよく分かる作品。

古典・古代美術への傾倒:「セネカの死」

セネカは古代ローマ時代の哲学者で、静脈を切って処刑されたが不動で耐えたとの逸話をもち、理性のモデルとなっている。ルーベンスは古代美術愛好家のサークルに加わっており、セネカを尊敬していた。古代美術への傾倒が読み取れる作品。

mamaima
上記以外にも、イタリア美術の影響を受けた作品は複数展示されています。イタリア美術とルーベンス作品が対比されて展示されているので、会場で要チェックです。

鑑賞ポイント3:宗教画にみられる、魅惑的でドラマチックな聖人たち

ルーベンスの宗教画では、聖人達がまるで英雄のように描かれている。彼の表現の新規性は、それまでの宗教画とは異なり聖人を魅惑的に描いていること。また、表情や構図がダイナミックでドラマチックであり、見る者を惹き込む力を持っている。

圧倒的な躍動感あふれる表現:「聖アンデレの殉教」

ルーベンス:「聖アンデレの殉教」
ファン・フェーン:「聖アンデレの殉教」

この作品は門外不出で、今回日本で見られることは大変幸運なこと。ルーベンスの師匠であるファン・フェーンが描いた同じテーマの作品と比較して紹介されていたが、躍動感あふれる表現と聖人の豊かな表情が圧倒的で、師匠を超えていることがよく分かる作品。

※ちなみに、ファン・フェーンの作品は素描だけでなく彩色されたものもあるのですが、パブリックドメインの画像がなかったため、ここではメトロポリタン美術館からお借りした素描画像のみ使用しています。

mamaima
確かに、師匠の絵では表現が静的なのに対して、ルーベンスの絵では動画の一場面を切り取ったような躍動感がありますね。比べると分かりやすい。明らかに師匠を超えてます。

 

ルーベンスの芸術性、人間性を多面的に理解できる展覧会の構成となっており、監修者の深い知識とルーベンス絵画への情熱が伝わってきました。キュレーターの方がどんなことを考えているのか、展覧会の企画プロセスや構成意図を知る貴重な機会となりました。監修者の意図を知った上で作品を見ると、また違った見方があるかもしれません。この講演会の内容を踏まえて、もう一度作品を見直してみようと思います。

※本エントリーの画像について:ファン・フェーンの「聖アンデレの殉教」はメトロポリタン美術館から、それ以外はWikimedia Commonsからパブリックドメインの画像をお借りして掲載しています。