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小さな魚の成長物語「スイミー」に代表される、心に響く絵本の数々を世に送り出したレオ・レオーニ氏。絵本の原画が見られる展覧会が各地を巡回しています。「みんなのレオ・レオーニ展」です。わたしはこの夏、東京・新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館での展示を見てきました。東京展は既に終了していますが、このあと鹿児島(2019年12月〜2020年1月)、沖縄(2020年2月〜5月)へ巡回します。ふつうの美術展とはちょっと違う、ほっこりする展覧会だったので見どころをレビューしたいと思います。
1. 教科書に載った名作・「スイミー」の原画が見れる展覧会
時を超えて愛される名作絵本、「スイミー」
子供の頃に読んだ物語で、大人になったいまでも印象に残っているものはないでしょうか。親に読み聞かせられた絵本や、学校の教科書に載っている物語の大半は成長するにつれて忘れ去られていきますが、誰でもひとつかふたつ、強烈に脳内にこびりついている話があるのではないかと思います。わたしにとって、そんな物語のひとつが、レオ・レオーニ作・「スイミー」です。小学校の教科書で読んだのが最初だと思います。
赤い小魚たちと暮らす、ひとりだけ真っ黒な色をした小魚のスイミー。あるとき、仲間の魚たちがマグロに食べられてしまい、ひとりだけ命からがら逃げのびたスイミーは、ひとりで大海原をさまよう中で様々な海の生き物に出会い、広い世界を知ります。その後、かつての自分の仲間たちとそっくりな赤い小魚の群れを見つけて、彼らに海の面白いものを見ようと誘いますが、彼らは捕食者を恐れて岩かげから出てきません。そこで、賢いスイミーは名案をひらめきます。赤い魚たちの群れを巨大魚に擬態させ、ひとりだけ黒い自分が巨大魚の目になれば、ホンモノの巨大魚と見分けがつかないため捕食のリスクなく大海原を冒険できると考えたのです。そして巨大魚に擬態したスイミーとその仲間たちは、巨大魚を追い出すことに成功します。
この物語は、現在でも小学2年生の国語の教科書に載っています。日本の教科書に採用されたのが1977年というから、長年にわたって人気を誇っていることがよく分かります。最近は電車内の広告(サイボウズのクラウドサービス、kintone)でも「スイミー」の挿絵が採用されていますね。広告に使用されるくらいなのだから、もはや国民的絵本といってもいいものかもしれません。
「スイミー」の原画が見れる、「みんなのレオ・レオーニ展」
この絵本が名作と謳われるのは秀逸なストーリー展開に加え、美しい挿絵にあると思います。「みんなのレオ・レオーニ展」では、「スイミー」の挿絵原画が見られるんです。
作者のレオ・レオーニ氏はオランダ出身のアートディレクター・グラフィックデザイナー・絵本作家。第二次世界大戦で米国に移住し、ニューヨークで数々の企業広告を担当しグラフィックデザイナーとして大成功します。その後、孫のために絵本を作りはじめ、「スイミー」をはじめ多くの作品が児童文学賞を受賞するなど、絵本作家としても世界的に有名な芸術家となりました。
「スイミー」の原画は今回5点が来日しています。水彩絵の具のにじみやまだらの模様が、海中の水の揺らめきや生き物の表情を生き生きと描き出しており、自然と絵本の世界に引き込まれます。これは絵の具を塗ったあと、紙を押し当てて写しとる「モノタイプ」という技法。これが独特の風合いを出しているんですね。
2.「スイミー」だけじゃない。心に刺さる名作絵本のストーリーと挿絵にどっぷり浸れる
レオ・レオーニ氏の代表作は他にもあります。社会における芸術家の役割を描いた「フレデリック」、自分らしさとは何か?を問う「チコと きんいろの つばさ」、反戦メッセージを込めた「あいうえおの き」…などなど。これらの原画も展示会場で見ることができます。原画を見ていると、切り絵のパーツひとつひとつにも「モノタイプ」が施されてベタ塗りとは違う味わいが出されていたり、色鉛筆で描かれたものでは工夫された色使いやストロークで絶妙なグラデーションが作られていたりと、挿絵に対する作者の徹底したこだわりが分かります。
ちなみに絵本のストーリーを知らなくても大丈夫。会場には手にとって自由に読める絵本が備えつけられているので、その場で話の筋を追いながら原画を楽しむことができます。この趣向のおかげで、普通の美術展と違う雰囲気ができていました。会場の至るところで大人が絵本に没頭しているんですよね。つくづく思ったのですが、レオ・レオーニ絵本のターゲットは子供だけではなく、大人も含むのだと思います。もちろん絵本は子供に読ませることを前提として作られていますが、そもそもお金を出して絵本を購入するのは基本親ですし、親の心に響くものでなければ購入には至りません。大人にも刺さるメッセージ性と、子供にも分かりやすく伝わる絵と文章を両立させるのが絵本作家の仕事なのだとすれば、並大抵の難易度ではありません。ただただ感服するばかりです。
また、絵本以外のアート作品も充実しています。油絵や彫刻のほか、広告作品も展示されています。デュポン社やゼネラル・エレクトリック社など超大手企業のものも手がけており、売れっ子デザイナーとしても活躍されていたことがよく分かります。
3. グッズも充実
美術館入口の1階と、展示会場のある42階にミュージアムショップがあります。レオ・レオーニ氏の絵本にちなんだグッズが販売されていますが、1階のショップの方が品揃えが豊富でした。わたしはメモ帳とハンドミラーを購入。そのほかにも文房具、食器、食品など充実の品揃えで散財必至でした。
大人も子供も、絵本を見ながら楽しめる「みんなのレオ・レオーニ展」。忙しい日常の合間に、ふっと心を癒してくれる展覧会です。
【鹿児島展】
会期:2019年12月7日(土)~2020年1月19日(土)
会場:長島美術館
公式サイト:https://www.asahi.com/event/leolionni/outline.html
【沖縄展】
会期:2020年2月28日(金)~5月10日(日)
会場:沖縄県立博物館・美術館
公式サイト:https://okimu.jp/exhibition/1560562037/
【東京展】
会期:2019年7月13日〜9月29日<終了>
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(東京・新宿)
公式サイト:https://www.sjnk-museum.org