(本記事は広告リンクを含みます)
アップルコンピューターの創業者であるスティーブ・ジョブズが設立し、3次元コンピュータグラフィックによるアニメーション映画製作のパイオニアであるピクサー・アニメーション・スタジオ。世界初の3D-CG長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」に始まり、「ファインディング・ニモ」「モンスターズ・インク」など、スリリングなアクション、美しい映像、笑いあり涙ありのストーリー展開で、子供だけでなく大人も魅きつけるアニメーションを多数製作しています。ピクサーはディズニーの傘下にありエンターテイメント企業としての印象が強いですが、3次元CGアニメーション映像の製作技術で世界の最先端を走っている企業でもあります。
東京・六本木の六本木ヒルズ展望台・東京シティビューでの会期を終えた後、大阪のグランフロント大阪北館で開催中の「ピクサーのひみつ展 いのちを生み出すサイエンス」は、ピクサーとボストン・サイエンス・ミュージアムが協力して開発されたもので、アメリカ・カナダの8カ所を巡回し150万人を動員した大人気の科学展です。わたしは東京展へ行きましたが、行ってみてとにかく驚いたのは、ピクサーが持つ世界最高の技術力を子供や初心者にもわかりやすく展示するプレゼン力でした。
「アートとテクノロジーの融合」を徹底的にわかりやすく伝える展示
まず最初に、5分間のイントロダクションムービーが視聴できます。(本展は、写真・動画撮影ともOKです)ピクサーのアニメーション製作プロセスの各部門が案内されるツアー形式になっており、製作者たちの作業風景が見られたり、最初はラフスケッチだったキャラクターがどんどん進化し、映画の中で生き生きと動くまでのプロセスが分かるようになっています。(音声は英語、日本語字幕付き)
ピクサーのアニメーションはキャラクターのデザインや風景、光の印象などの要素である「アート」と、その魅力を最大限に引き出す「テクノロジー」が融合して生まれるというコンセプトが最初に示されます。そして具体的にどのようなことが行われているのかをわかりやすく伝えるため、効果的な展示方法がとられています。
全体像を見せてから、各論に入る。
まず入口を入ると、「ピクサーの製作パイプライン」というパネルが出迎えてくれます。
「ストーリー&アート」や「アニメーション」あたりは馴染みある言葉ですが、「シミュレーション」「モデリング」「リギング」「レンダリング」などは専門外の人間にはピンとこない言葉です。が、とりあえずこうして全体像を把握することで、「これだけ多くのプロセスが複雑に絡み合って製作されているんだな」ということは分かりますし、イメージしにくい作業段階については各段階の解説をあとで見ようと思えるので、全体の展示を見るにあたって心の準備ができるんです。
さらにここでは、各段階の概要的な説明が映像つきで見られます。例えば、「シミュレーション」の段階では何をやっているのか?というとキャラクター本体だけでなく髪の毛や衣服もあわせて動かして、本物らしく見せるプロセスだとわかります。
そして、隣には「シミュレーション」の前段階にあたる「アニメーション」が映像つきで説明されているので、「アニメーション」→「シミュレーション」とステップを踏んでいくことで、映像がどう進化していくかが視覚的に理解できます。これは初心者にもわかりやすい!
製作プロセスの詳しい説明では、直感的に理解できる体験ツールを用意する。数式は極力見せない。
全体像の説明から各製作段階の展示へ入っていくと、そこには必ず体験コーナーがあります。例えば、「リギング」は立体モデルとして作ったキャラクター内に骨格や筋肉の要素を追加し、自然な動きを再現する作業段階のことですが、文章だけではピンとこない…。そこで体験コーナーの出番です。
これはトイ・ストーリーのキャラクター、ジェシーの表情をつくる体験です。眉、上下まぶた、瞳のリグ(骨格や筋肉に相当するもの)のパラメーターを自由にレバーで変化させることができ、キャラクターが変な表情になってしまったりして、思わず笑ってしまいます。
…というふうに楽しく遊べてしまうのですが、高度な数学モデル(サイン、コサイン、3次元ベクトル…)やプログラミングの技術があるからこそ、こういうことが実現できるんですよね。しかもピクサーは世界最高レベルの技術力を持っているはず。それを数式や専門用語を使わずに、直感的に楽しく体験させてしまうところが本当にすごい。学生の頃、数学で三次元ベクトルや行列を習う意味が結局分からなかったのですが、「こういうところに生きてくるのか~!」と今更ながら納得したのです。学校の数学もこんな風にわかりやすく教えてくれたらいいのに…。
ちなみに、体験コーナーのそばにある開発者インタビュー映像では、数式やプログラミングがちょっとだけでてきます。製作の苦労話も聞けるので、製作にあたって多くの技術的挑戦が行われていることがよくわかります。
さらに驚愕するのは、この体験用ツールはこの展覧会専用に開発して準備されていると推察されること。各製作段階の説明に備えつけられていますし、相当なコストがかかっているのではないでしょうか?「徹底的にわかりやすく伝える」ことへのピクサーのこだわりが見えます。
アーティストも活躍!
ストーリーやキャラクターの構想が決まったら、キャラクターの3D模型を実際に粘土で製作し、これが以後のCGアニメーション製作の基盤となります。これまでピクサーのアニメーションに登場したキャラクターのフィギュアが展示されていますが、どれもものすごく精巧にできています。キャラクターの表情ごとに違う模型をつくるんですね。
また、「ライティング」では照明デザイナーが場面の雰囲気や主人公の心情、時間帯などに応じて適切な照明を設定し、見る人の心に訴える美しい映像を作りだしています。そしてこれらを映像内に反映するのが「テクノロジー」なんですね。まさにアートとテクノロジーの融合です。
世界最強の技術力で、最高のエンターテイメントを創り出すカッコよさ
展示映像を見ていて印象に残った言葉があります。それは、ピクサー映画を見るにあたって「技術に注目するのではなく、ストーリーに没頭して楽しんでもらいたい」という開発者の発言。ピクサーはこれだけ高度な技術力を持っていながら、あくまでも技術はエンターテイメントを下支えするもので、「自分たちが目指すものは最高のエンターテイメントだ」と言ってしまうあたりがものすごくカッコいい。
その考え方は本展でも存分に生かされています。専門技術を押しつけるような印象はまったくなく、エンターテイメントの延長として楽しくコンピュータサイエンスに触れられる工夫が凝らされていて秀逸。科学展示の理想形だと思います。大人も子供も楽しめる展示ですし、本当におすすめです!
【大阪展】
会期:2019年12月21日(土)~2020年2月24日(月・振休)
会場:グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
公式サイト:https://www.tv-osaka.co.jp/event/pixar/
【東京展】
会期:2019年4月13日〜9月16日<終了>
会場:六本木ヒルズ 東京シティビュー
公式サイト:https://tcv.roppongihills.com/jp/exhibitions/pixar/index.html
ピクサーの卓越したCG技術とアートで製作された映画「トイ・ストーリー4」。これ、評価が賛否両論なのですが、観てみたら大人が自分の人生を考えさせられる深いメッセージ性を持つ作品だったので名作でした!レビューはこちら↓