ディズニーシーに名画が隠されている意外な理由

(本記事は広告リンクを含みます)

ディズニーシーで名画に会える?!

今日はミッキーマウスの90歳の誕生日だそうなので、ディズニーとアートの関係について書いてみたいと思います。
私はときどき東京ディズニーリゾートへ行くのですが、ディズニーシーにはある名画が隠されているということをご存知でしょうか。
こちらです↓(ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作、「悔悛するマグラダのマリア」)

ジョルジュ・ラ・トゥール作 「悔悛するマグダラのマリア」 (ロサンゼルス・カウンティー美術館蔵)

ジョルジュ・ラ・トゥール作
「悔悛するマグダラのマリア」
(ロサンゼルス・カウンティー美術館蔵)

ディズニーシーのとある場所に展示されている絵画 (筆者撮影)

ディズニーシーのとある場所に展示されている絵画
(筆者撮影)

左がオリジナルの絵画、右がディズニーシーにさりげなく展示されているコピーです。そっくりですよね。
ジョルジュ・ド・ラトゥールはバロック時代(1600年代)の画家で、上記のように蝋燭の灯火で照らされた人物の光と影を見事に描いた夜景画が有名です。「悔悛するマグダラのマリア」はキリスト教の聖書のストーリーに基づいた作品で、マグダラのマリアは快楽に溺れる罪深い女性であった(娼婦であったとの説もあり)が、イエス・キリストと出会い悔い改め、最終的にはイエス・キリストが磔刑に処せられた後、復活するのを見届けた証人となった聖人です。「悔悛するマグダラのマリア」は蝋燭の灯を見つめながら、彼女が自分の罪を悔い改めている様子が描かれていると思われます。一方、マグラダのマリアは娼婦ではなくイエス・キリストの妻であったとの説もあり、彼女が罪深い女性であったとの設定はカトリック教会がイエス・キリストの結婚を隠蔽するための陰謀だとも言われています。(この説に基づく小説が、以前ベストセラーになった「ダ・ヴィンチ・コード」です)
では、「なぜこの絵がディズニーシーにあるの?!」ということなのですが、答えは簡単。ディズニー映画に登場するからです。

ディズニー映画「リトル・マーメイド」に登場

「リトル・マーメイド」はアンデルセンの童話「人魚姫」を元に製作されたディズニー映画です。主人公の人魚姫アリエルは海上の人間の世界に憧れ、人間界の銅像やガラクタ、絵画などを宝物として収集し、海底にある自分の洞窟に飾っています。そのコレクションの中に「悔悛するマグダラのマリア」も含まれているのです。従ってこの絵画のコピーは、ディズニーシーのリトル・マーメイド関連エリアに展示されています。
製作者は一種のジョークでこの絵画をアリエルのコレクションの中に紛れ込ませたのかと思ったのですが、映画のシーンでもこの絵をわざわざクローズアップして映している描写があり、何か特別な意味があるのではないかと勘繰ってしまいます。わざわざコピーを作ってディズニーシーに展示しているくらいですし。
アリエルが人間界への憧れを歌う”Part of the World”という曲では、海中にはない「炎」、「燃える」という概念をアリエルがこの絵で知ったと思われる歌詞があります。

(原曲歌詞)

And ready to know what the people know
Ask ‘em my questions and get some answers
What’s the fire and why does it – what’s the word?- Burn?

(筆者訳)

人間が知っていることをもっと知りたいわ
人間に私が質問をして、答えてもらうの
例えば「炎って何?そしてそれはどうして…ええっとあれ、何ていうんだっけ…、あっそうだ、炎はどうして燃えるの?」とか。

Little Mermaid “Part of the World” 歌詞より引用

…と、このくだりを歌いながらアリエルは「悔悛するマグダラのマリア」の蝋燭の炎を指さしているんですね。絵画の中でしか炎を見たことがないから、火とはどんなものか、なぜ燃えるのか人間に尋ねてみたいということなのでしょう。
しかし、火や燃えることを知るだけなら別の絵画でも良いわけで、なぜこの絵なのか?ということが少し引っかかりますよね。
諸説ありますが、例えばベストセラー小説「ダ・ヴィンチ・コード」では、アリエルの赤毛=マグダラのマリアを象徴しており、その他にも聖なる女性と結びつく象徴がこの映画に多く盛り込まれているとの解釈が提示されています。個人的には、この場面はアリエルが父親から「人間に関わるな」と叱られた直後の場面なので、人間への憧れを断ち切れないアリエルの葛藤とこの絵が表現しているマグダラのマリアの苦悩を重ね合わせたうえで、アリエルが火の存在をこの絵から学んだという設定にしたのかなと思っています。他にも色々な解釈が成立すると思いますが、ディズニー社からの公式見解はないようなので、解釈は見る者に委ねられているということだと思います。こうやってみると、ディズニー映画もただの子供向け映画と侮れないですよね。これが世界中で人気を博している理由だと思います。

アートの観点から見ると、アニメーション映画も少し違った見方ができて面白いですね。ちなみに、ディズニーシーで展示されている「悔悛するマグダラのマリア」を引きで撮影すると下記のような感じになります。ディズニーシーに行った際は、ぜひ探してみてください。結構奥まった場所にあるので、探しがいがありますよ~。

「悔悛するマグダラのマリア」は、ディズニーシーのリトル・マーメイドにちなんだエリアにこっそり展示されています

「悔悛するマグダラのマリア」は、ディズニーシーのリトル・マーメイドにちなんだエリアにこっそり展示されています