新型コロナウイルスで、珍しく世論が政治を動かしている

いよいよ国内でも感染爆発の緊迫感が高まってきた。3月20日~22日の3連休、楽観論が広がり、外出自粛が緩んだ影響が出てきた。卒業・年度末シーズンであったことも影響していると思うが、各地で散発的にクラスター感染が広がるだけでなく、大都市圏では感染経路不明の感染例が増えてきた。特に東京では、4月4日には感染者数のトータルが117名、4月5日には143名を記録。4月6日の感染者数は83名と減少したが、そのうち88%に相当する73人が感染経路不明と報道されている(NHKニュース)。これは保健所などによる行動履歴調査が未完了のまま先に感染者数のみを発表しているので「経路不明」となっているだけかもしれないが、既に分かっているクラスターからの感染と容易に紐付けられないことは確かなので、潜在的な感染者数はとても多いのではないかと思う。そして怖いのは医療崩壊だ。新型コロナウイルス対策ダッシュボード(https://www.stopcovid19.jp)で医療機関の感染症病床のうちどの程度が占有されているかを見ることができるが、今日確認した時点で全国的に病床数が逼迫しており、特に大都市圏の東京、神奈川、福岡、そしてクラスター感染が確認された京都、岐阜ではすでに感染症病床数を超えて入院患者を受け入れていることが分かる。

このような状況を受けて、4月6日に東京都医師会は「医療的緊急事態宣言」を出した。このままでは医療崩壊が避けられない状況であることを強く訴え、東京都、そして国に緊急事態宣言の発令とそれに伴う強い外出自粛要請を求めた。政府は経済へのダメージを懸念して緊急事態宣言の発令に消極的であったが、4月6日になって経済界からも緊急事態宣言を求める声が出た。たとえば楽天の三木谷会長を代表理事とする新経済連盟は「一刻も早い緊急事態宣言の発令を求める提言」を出している。(https://jane.or.jp/proposal/comments/10077.html

こうした世論を受け、4月6日に「首相が緊急事態宣言に向けた準備に入ることを表明」したというニュースが流れた。これを見たとき、周りくどすぎる表現に思わず笑ってしまったが、たぶん諮問委員会に諮らなければ発令できないとか、手続き上の問題があるのだろうと思う。こういう「結論は既に出ているんだけど、手続きの順番や根回しを十分にしないと後々大問題になるので即時実行できない」というのはとても日本的で、どんな組織でも変わらないんだなあと思っている。日本の会社でこういうのよく見たな~、と既視感満載である。そして一般人がどうするかというと、こういう上層部の空気感を読みつつ、緊急事態宣言の発令前から発令後を見越した行動をとる。これもジャパニーズサラリーマンあるあるだ。

それにしても、ここ数日の報道を見ていると日本は未だかつてないくらい民主的なんじゃないかと感じている。たとえば4月6日の午後イチで流れた「緊急事態宣言の発令に伴い電車減便を要請」というニュース。これを受けてネットがざわついた。SNSでは「減便したらさらにひどい満員電車になってやばい」「イギリスでは地下鉄を減便した結果、かえって車内が混雑して感染を広げた」などの投稿が相次ぎ不満が噴出。今朝の段階では「鉄道の減便は検討していない」と安倍総理が発言している。最終的にはどうなるか分からないが、ネットの声が政治家を動かしたように見える。

そういえば、風俗業従事者に対する休業補償の件もそうだった。厚労省クラスター対策班が「夜の街クラスター」による感染拡大を発見し、バー・ナイトクラブ・キャバクラなど接客を伴う飲食店(いわゆる風俗業も含まれる)の利用自粛要請が出されたが、そこで働く人は休業補償の対象外という問題。こうした制度の穴もSNSで発見され、賛否両論の議論が巻き起こり、結局は風俗業従事者も休業補償の対象となった。これもネットの声が政府に届いた一例だと思う。昨年の消費税増税の時は世論の批判を押し切って実行したのに、今回の場合はなんだか世論ありきで決めているようにすら見える。

なぜ新型コロナウイルスの件ではこんなにも世論が政府を動かすのだろうか。政府が優柔不断だからだとか、いろいろ理由は考えられると思うが、わたしは感染症パンデミック特有の事情が影響しているのではないかと思う。いくら政府や専門家が号令をかけたところで、国民大多数の理解と協力が得られなければウイルスの感染スピードを抑えることができないからだ。新型コロナウイルスは忖度しない。性別、社会的地位、人種などの属性は関係なく、人間であれば誰でも感染する可能性がある。ウイルスの前では、既得権益や利権は大して役に立たない。感染力が高いので、人間どうしの接触がある限りどんどんウイルスが広がる。そして、感染が拡大すると国の中枢にまでウイルスは入り込む。諸外国では、感染から最大限守られているであろう国のVIPも感染している。イギリスのチャールズ皇太子、ジョンソン首相も感染した。今日の時点でジョンソン首相は集中治療室で治療を受けているとの報道も出ている。もはやイギリスは国家的危機に瀕していると言っていい状況である。日本でこれだけ世論で政治が動くのは、一般人が納得できる外出制限・営業自粛・補償がなければイギリスのようになるという危機感があるからだと思う。ウイルスのおかげで、一般人の行動や現場感覚が政治家にとって自分事になっているというわけだ。

SNSでの誹謗中傷やフェイクニュースの流布は問題だが、今回の件を見ていて政府に対する建設的な批判や提案は実効性の高い新型コロナウイルス対策をつくる上でプラスに働くかもしれないと思った。今日緊急事態宣言が発令され、明日施行される見通しだが、誰もが初めて経験する事態なので色々な問題が起こるだろうし、完璧な施策は望めないと思う。それ自体はある程度仕方がないと割り切る必要がある。実行してみて起こった問題は、建設的な意見と批判で軌道修正していければいい。まずは今夜予定されている首相会見に注目だ。