森美術館「未来と芸術展」:解説動画つきの無料VRがリアルな美術館体験に近かった話

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新型コロナウイルスで都内の美術館や博物館はまだ休館中のところが多いですが、いくつかの施設で展示室内のVRを公開しています。最初に上野の国立科学博物館のVR(かはくVR)を見てからVRミュージアムにはまり、他の施設のVRも試してみています。今回は森美術館の「未来と芸術展」を見てみました。本来ならば今年の3月29日までの展示予定だったようですが、新型コロナウイルスの影響で会期を短縮せざるを得なかったようです。これ、わたしも見に行こうと思っていたのですが、予定が合わずにずるずると先延ばしにしていたらコロナ騒動が勃発、結局行けないままになってしまったのでした…。ついつい展覧会の訪問予定を会期直前まで延ばしてしまいがちなのですが、見たい展覧会は思い立ったらすぐ行かないとダメですね。反省。でも森美術館がVRを公開してくれて本当に助かりました。しかも動画解説つきだったので、かなり美術館でのリアルなアート体験に近かったのです。

森美術館の無料VRを見る方法

森美術館のVRは国立科学博物館や岡本太郎美術館のVRと同じプラットフォームで作成されているようなので、国立科学博物館や岡本太郎美術館のVRを見たことがあればスムーズに見ることができると思います。森美術館のVRは作品タイトル、文字解説だけでなく、森美術館特別顧問の動画解説まで見られるところが秀逸です。ちなみにVRゴーグルがなくても展示室内を見ることができます。

VRゴーグルなしで見る場合

スマホやPCのインターネットブラウザから森美術館公式サイトの「未来と芸術展」3Dウォークスルー特別公開(https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamdigital/03/)を表示すると、ここから展示室内の3Dビュー画面に入っていけます。行きたい方向の床面や壁面をクリックすると、その方向に進んで行くことができます。かなり壁面の作品や解説パネルに近づくことができました。画面中の◎をクリックすると、作品のタイトルや解説、映像作品、森美術館特別顧問の動画解説が再生されるようになっています。解説動画を再生しながら作品を見れば、音声ガイドを聴きながら作品を見ているような体験ができます。これは美術館の展示室に近い経験ができていいですね。

VRゴーグルを装着して見る場合

わたしはOculus goを使いました。Oculus goのブラウザモードで森美術館公式サイトの「未来と芸術展」3Dウォークスルー特別公開(https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamdigital/03/)を表示し、3Dビュー画像が読み込まれたら画面下部にある「ENTER VR」をクリックするとVR映像に入れます。スマホの3Dビューではキャプションや動画解説が見られたのですが、ゴーグルを装着してVR映像を見ている状態だと見れませんでした。これはちょっと残念…。そこで、なんとか動画解説を聞きながらVR映像を見ることができないか考えました。結局、ゴーグルでVR映像を見ながらスマホで3Dビュー画面を同時に起動→VRゴーグルの隙間から手元のスマホを見ながら操作→スマホで動画解説を再生しつつゴーグル内のVR映像で作品を見る、という珍妙な解決策しか思いつきませんでしたが…。このVRプラットフォームで対応しているVRゴーグルはGoogle CardboardとSamsung Gear VRのようなので、正式に対応しているVRゴーグルを使えば見え方が違ってくるのかもしれません。

「未来と芸術展」で見えてくる、テクノロジーとアートの未来像

森美術館の「未来と芸術展」の展示をVRで見てみて、現代アートではVRミュージアムの強みが生かされるかもしれないと思いました。壁面に掲示されているタイプの展示や、床に置かれている彫刻などの展示もありますが、けっこうインスタレーションが多いんですよね。リアルな美術館でこうした作品を見るときは、展示室の床から天井まで、空間全体で作品を体感することになります。こうした空間表現作品を写真、動画、3Dビューで見るとなると、平面的な画像を客観的に見るようなかたちになるので、没入感が少なく、なかなか作品の高さ、奥行きなどをリアルに感じにくいのです。その一方で、あたかもバーチャル展示室の中に身を置いたような体験ができるVRなら、天井、床、左右すべての空間をバーチャルに体感できるので、インスタレーションのリアルな印象が損なわれることなく伝わりやすいのです。

本展ではテクノロジーの進歩によって生み出される新たな都市・建築・ファッション・暮らしに関するさまざまなアーティストのクリエイティブなアイデアと、過度な科学技術の進歩に対して警鐘を鳴らすメッセージの両方が見られました。どれも興味深いものでしたが、このご時世、なかでも印象的だったのは未来の都市計画のアイデアを示した「NEO出島」でした。近年の日本は経済的に停滞しているので再び鎖国をしてはどうか、という大胆なアイデア。ただし海外との接点は失わないために国会議事堂付近の都心上空に浮かぶ出島を作り、公用語は英語にしてグローバルエリートが集まる経済特区にしてみてはどうかという提言です。これ、新型コロナウイルス騒動下ではちょっと現実味を帯びてくるアイデアではないでしょうか?もし国内での封じ込めに成功すれば、次なるミッションは経済を維持しつつ海外からの持ち込み事例をどう防ぐか、ということになります。そうなってくれば原則的には鎖国にして、入国者専用の隔離地域(=現代の出島)を作り、海外とのビジネスはそこで進めるという考え方だってあり得るわけです。…「NEO出島」の先見性に脱帽です。

既存の枠にとらわれない、創造的な未来像の数々をVRで見ながら、将来VRメインの展覧会も行われるようになるかもしれない、とわたしは思いました。リアルでの展示はなく、VR空間内のみでの展示。リアルの展示はないのでハンズオン展示などはできませんが、その代わり現実ではあり得ない空間表現が可能になります。たとえば重力に逆らった作品もOKですし、消防法的にダメそうな展示(火を使う)などもOK。テクノロジーは未来の展覧会の形も変えていくのかもしれません。

森美術館のVRはリアルで美術館を訪れたときと同じ情報(作品+キャプション)に加えて、動画解説まで聞けるのに無料だなんて素晴らしすぎます。「展示室のすべてを公開する」という森美術館の気合いを感じました。いつまで無料公開されるのかわかりませんが、本当にオススメです。

未来と芸術展 3Dウォークスルー特別公開

公式サイト:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamdigital/03/