東京緊急事態宣言日記20:国立感染症研究所が発表した、ダイヤモンドプリンセスでのウイルス検出状況から学べること

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今朝になって、緊急事態宣言の前倒し解除の可能性があるとのニュースが流れるなど、ちょっと緊急事態宣言の出口が見えてきた雰囲気が漂っています。もうメディアもわたしたちも緊急事態宣言はいつどのように解除されるのかということで頭がいっぱいなのですが、その一方で過去の事例から学ぶことも重要です。特に新型コロナ騒動の初期、日本にとって大きな脅威となったクルーズ船、ダイヤモンドプリンセス。このクルーズ船の対応にあたっては様々な議論がありましたが、結果を見れば死亡者数はきわめて少なく、このタイミングで日本国内での感染爆発は起こらなかったので対応としては成功であったのだと思います。この経験から学べることは大きいはずと思い、わたしは最近出始めたダイヤモンドプリンセス関連の研究報告をチェックしています。

新型コロナ関連情報をチェックするためにいつも見ているもののひとつが国立感染症研究所のウェブサイトですが、この連休の間に「ダイヤモンドプリンセス号環境検査に関する報告(要旨)」(2020/5/3付)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9597-covid19-19.html)がアップされていました。あまり報道されていないような気がするのですが、結構重要な研究だと思うんですよね。この研究は、船内から乗客が退室した後、クルーズ船内のどういった場所にウイルスRNAが残されているのかを調べたもののようです。飛沫感染や接触感染のリスクは、環境中のどういう場所で高まるのか知るうえでとても重要な研究です。まだ要旨のみの発表なので詳しくは論文発表を待たなければなりませんが、この要旨だけでも非常に示唆深いものではないかと思っています。

船内の共有部分97か所、乗員乗客の49部屋490か所、空気14か所の計601か所から検体を採取し、新型コロナウイルスRNAが検出されるかどうかを調べたとのこと。それにしてもすごい検査数ですね…これだけのサンプリングは相当大変だったのではないでしょうか。乗員乗客の船室に関しては1室あたり10か所(電気スイッチ、ドアノブ、トイレボタン、トイレ便座、トイレ床、椅子手すり、TVリモコン、電話機、机、枕)からサンプルを採取したとのこと。患者・非患者の部屋両方を調べたようですが、これはPCR検査陽性vs陰性で比較したのか、症状ありvs症状なしで比較したのかは詳細不明でわかりません。(論文化を待ちましょう)

船内の共有部分では、廊下の排気口1か所のみからウイルスRNAが検出されました。その一方で、乗員乗客の船室のうち、新型コロナウイルスの検出頻度はトイレ床、枕、電話機、机、TVリモコン等で高かったとのこと。なんとなく生活の中でよく触りそうなもの(TVのリモコン、机や電話機)で検出されるのは納得だったのですが、盲点だったなと思ったのはトイレの床と枕です。トイレの床は直接手で触ったりするわけではないけれど、水洗トイレを流した時に散った飛沫が床に落ちて付着しているということでしょうか。もし家庭内に感染者が出たら、トイレの便座・水洗レバー・トイレットペーパー周りなど、手で触るところは消毒が必要だろうとは思っていましたが、トイレの床も消毒しないといけないのか~、と目から鱗でした。あとは寝具(枕)というところ。寝具は症状のある人に長い時間接しているし、特に枕は顔に近く、咳やくしゃみの飛沫がつきやすいからですかね。とにかくダイヤモンドプリンセスの船内でウイルスRNAが検出された場所は、接触感染の原因となりやすい場所と考えたほうがよさそうです。

また、1点気になるのは、共有部分廊下の排気口1か所からウイルスRNAが検出されたということ。その排気口までウイルスはどうやって到達したのでしょうか?クルーズ船内で空気中をウイルスがどう移動したのか?それは感染拡大にどの程度寄与したのか?まだまだ分からないことがたくさんありますね。

このクルーズ船の経験をのちに生かすべく、感染研でこのような研究を行ってくれていて素晴らしいなと思っています。ダイヤモンドプリンセスは、外界から隔絶された集団で新型コロナウイルス集団感染が起こった世界的にも希有な環境です。閉鎖環境の中で乗員・乗客は大変な状況に置かれてしまいましたが、その一方で全員の行動把握が比較的容易であり、感染経路を把握しやすくなりました。このクルーズ船での感染率、感染経路などの情報は緊急事態宣言からの出口戦略策定にも大いに役立つことでしょう。ダイヤモンドプリンセスでのデータを持っていることは、日本にとって相当なアドバンテージになるはずです。その一方で、クルーズ船は船会社の私有財産であり、船会社としてはこれ以上の風評被害を避けたいはず。こうしたフォローアップ研究の許可をもらうのは大変だっただろうと推察されます。まあ、クルーズ船の対応を日本で引き受ける代わりに、ここでの状況を研究報告として発表するという交渉をしたのかもしれませんが…。

クルーズ船についてはたくさんの批判がありましたが、これだけ難度の高いミッションをクリアした関係者の皆さんは本当にすごいと思っています。クルーズ船に限らず、新型コロナに対する日本政府や専門家会議の対応はことあるごとに批判されがちですが、今のところは感染者数と死亡者数は世界有数に低いレベルを保っており、その点は誇ってよいはずです。

日本はもともと災害大国ですが、過去の失敗や経験から学び、災害対策を強化してきました。今回の新型コロナの経験からも多くの学びを得て、感染症に強い国となることができると思っています。ダイヤモンドプリンセスのフォローアップ研究に、今後も注目です。